2021年12月17日号 Vol.412

コロナワクチン紙面勉強会[第2弾](1)
ブースター、変異株、子どもへの接種
〜日本クラブ・米国日本人医師会のウェビナーから〜

全米でコロナワクチンの3回目の接種(ブースターショット)が進む中で、南アフリカから新たな変異株「オミクロン」が出現。この冬の新型コロナ感染の動向が注目されている。連邦機関のガイドラインや地方自治体のコロナ政策が日々刻々と変化するため、戸惑う人も多いはず。ここでは、日本クラブと米国日本人医師会(JMSA)共催のウェビナーから、コロナワクチンの効果や、ブースターの必要性とその意義、安全性、子供への接種などについて、最新事情をまとめた。(記事監修:兒子真之医師・柳澤貴裕医師)

※ウェビナーは2021年11月26日ライブ配信、録画映像はwww.nipponclub.orgで視聴可


ワクチンの有効性

米国で認可されているファイザー・ビオンテック(以下ファイザー)、モデルナ、ジョンソン&ジョンソン(以下J&J)製ワクチンの有効性は、治験データだけでなく、その後一般に接種が始まってからのデータでも証明されていると、兒子医師は解説。イスラエルと、カリフォルニア州ロサンゼルスのデータを取り上げ、未接種者と接種者の感染率に大きな開きがあること、未接種者の入院率が接種者の30倍であることを示した。「私が勤務するヒューストンの病院でも、入院患者のほとんどはワクチン未接種者です」と、自らの体験を通しての実感を語った。

同時に、一般への接種データから、抗体ができにくい人がいることも分かった。米疾病管理予防センター(CDC)のデータが、①抗がん剤治療を受けているがん患者、②臓器移植を受けた人、③免疫抑制剤を服用している人、④治療を受けていないエイズ患者などは、健康な成人に比べると、接種後の抗体価がかなり低いことを示している。兒子医師は、「病院で診療するワクチン接種後の重症コロナ患者の多くはこういった層です」と話す。ワクチン接種完了者の間で入院患者が増えているのは、このような特有な問題もある。

そのため①〜④に該当する人には、「2回目の接種後28日で3回目を接種する」という、一般向けとは異なる3回目接種のガイドラインがある。「該当者は注意してほしい」と両医師は呼びかけた。





ワクチンの持続性と
変異株の出現


ワクチン効果の持続性を考えるとき、新型コロナ感染の場合、切っても切り離せないファクターが変異株だ。ワクチン効果そのものは持続していても、変異株への対応力がどの程度あるかは、デルタ株の出現時にすでに議論された。

まず、変異株とは何なのか? 兒子医師は次のように説明する。

「ウイルスが増殖するたびに、ウイルスの中にある遺伝子に何らかのエラーコピーが起こります。それが大事な部分で起こると、ウイルス全体としての『顔つき』を変えてしまいます。それが変異株です」

世界保健機関(WHO)は、変異株をその脅威の度合いから4つに分けており、この夏世界中で猛威を振るったデルタ株と、最新のオミクロン株はいずれも、人の細胞に感染するためのスパイクと言われる部分に大きな異変があることから「懸念されるべき変異株(Variant of Concern=VOC)と位置付けられている。
表❶は、CDCのデータを基に、変異株の感染力、重症化リスク、ワクチンの有効性を比較したもの。オミクロン株についてはまだデータが少ない。

これを見ると、なぜデルタ株が怖いのかが分かる。「オリジナルの新型コロナの2倍の感染力で、結果わずか数ヵ月で米国内感染の90%以上を占めるに至りました」と兒子医師。

このデルタ株の出現で、ブレークスルー感染が見られるようになったことが、ブースターショットの必要性へと議論を広げていく。



ブレークスルー感染とは

ワクチン接種完了後、2週間以上経過した後に、呼吸器のサンプルからウイルスが検出されることを、ブレークスルー感染という。デルタ株の出現でそれが増えたことについて柳澤医師は、「ワクチンの効果が減退しつつ、そこに感染力の強いデルタ株が流行し、両方の要因が絡み合って、ブレークスルー感染が増えたと考えられます」と話す。

ブースターの必要性

ブースターショットに関するCDCのガイドラインは❷参照。

両医師は、「抗体価が減衰するのはコロナワクチンに限ったことではありません。百日咳も成人の罹患例が増えたため、成人後の再接種が勧められますし、B型肝炎、麻疹も同様です」とし、コロナワクチンだけが特別ではないことを強調した。

柳澤医師は「医療ミスの発生を防ぐためにも、ブースターを受ける際には、必ずCDCの接種カードを持参してください」と呼びかけた。


ミックス&マッチ

新型コロナワクチンのブースターショットは、最初に受けたメーカーとは別のメーカー製のワクチンを受けることができる。これを俗に「ミックス&マッチ」と呼んでいる。巷では、どの組み合わせが最も強力なのかとか、どのメーカー製が最も効果が高いのかと、もっぱらの話題だ。

兒子医師はウェビナーで、ミックス&マッチの臨床試験結果を紹介した。米国で認可されている3つのワクチン(ファイザー、モデルナ、J&J)の全9通りの組み合わせの、抗体価のみを比較したものだ。人間の生体免疫などは加味されていない。

各グループ50人ずつとサンプルも小さいので、この臨床試験は組み合わせによる効果の差を比べるというよりは、どの組み合わせでもきちんと抗体価が上がることを確認するためのものだと兒子医師は解説した。結果は、どの組み合わせでも、ブースター接種後15日目、29日目で、しっかり抗体価が上がったことが証明された。被験者の基礎疾患などの状態が完全に調整されたデータではないので、単純比較は難しいが、J&J/J&Jの組み合わせは、他と比較すると若干抗体価が低いと言える。

「まだ初期データですし、29日目以降の推移がどうなるかも楽しみです。また、ファイザー、モデルナが日本でも承認されていることを考えると、日本で承認されていないJ&Jを受けた人は、ブースターを機にファイザー、モデルナに移行してもいいかもしれません」と兒子医師。さらに、この試験時はモデルナのブースター容量が1、2回目と同じ100マイクログラムだったため、今後は50マイクログラムで再試験が行われるはずだとも。

どのワクチンが効くの?

CDCのデータによると、接種後の感染率が最も低いのがモデルナ、次いでファイザー、J&Jだ。「当然ですが、圧倒的に感染率が高いのはワクチンを打っていない人です」と兒子医師。

さらに「特筆すべきは死亡率です。50歳以下で、ワクチン接種完了者の死亡は限りなくゼロに近い。一方で50歳以上では、7月以降にワクチン接種した人にも死亡率の増加がみられることが、この年齢層のブースターが初期から強く勧められていた理由です」と話す。(図❸参照)

子どものワクチン必要?

すでにアメリカでは5〜11歳のワクチン接種が進んでいる。現時点ではファイザーのみがこの年齢に認証されている。兒子医師は、「保護者から、子供の重症化率は低いのにワクチン接種の必要はあるのかとよく質問されますが、ワクチンのリスクとベネフィットを秤にかけたとき、やはり圧倒的にベネフィットの方が大きい」と話す。兒子医師も柳澤医師もこの年齢の子供を持ち、すでに接種を済ませているという。

まず、子どもが感染した場合、▽長期的な合併症についてまだ不明、▽川崎病に似た小児多系統炎症症候群(MIS-C)の発症例の44%が5〜11歳、▽学校などの集団生活で隔離が困難、▽小児感染数は少なく見積もられている可能性があり、実際にはもっと感染数が多いことが考えられるため、知らない間に周囲のハイリスク層(高齢者など)に感染を広げる可能性がある。

「以上のことからも、子どものコロナワクチン接種は重要だと思います」と両医師は話す。米国小児科学会も奨励している。

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