2021年12月17日号 Vol.412

ブロードウェイに観る
ポジティブな変化(1)

2021年11月26日、ミュージカル界の巨匠スティーヴン・ソンドハイムが死去した。氏が作詞作曲を手がけた「カンパニー(COMPANY)」=表紙写真=のリバイバルが再開した直後のことだった。

この場合の「COMPANY」は「仲間、付き合い、集い」の意味で、まさにコロナ禍で私たちの日常から奪われてしまったものだ。ソンドハイムという不世出のアーティストのレガシーを祝しつつ、2022年にはかけがえのない日常が復活するよう願っている。(高橋友紀子)


Photo by KC of Yomitime

1年半の閉鎖を乗り越え、ブロードウェイが再開して3ヵ月余。ニューヨークの象徴的なエンターテイメントの復活に伴い、タイムズスクエアにも喧騒が戻って来た。

しかし、その道のりは決して平坦なものではない。慎重な対策にもかかわらず、俳優やスタッフに感染者が出て休演に追い込まれる公演は後を絶たない。集客に苦戦し、予定を繰り上げて閉幕した演劇作品も3本を数えた。

かき入れどきのサンクスギビングの週は再開後最高の興行収入を記録したが、2019年と比べると1作品につき平均12%の減収となった。



もちろん、世界的にパンデミックが続く中、観光客が65%を占めるブロードウェイで、興収が最盛期の9割近くまで戻ったことは大健闘だ。今後、オミクロン株の動向がどのような影響を与えるかが目下の大きな不安材料である。


ジェファーソン(中央)と奴隷役のアンサンブルの距離感などを細かく変更(『ハミルトン』より)(Photo by Joan Marcus)

コロナ禍が生み出した
人種差別是正への動き


同時に、ブロードウェイにはポジティブな変化も起きている。人種差別是正への意識の高まりによって、キャストやクリエイティブチームに多様性が求められるようになったばかりか、作品の内容や描写が細かく検分されるようになったのである。

大ヒット作「ブック・オブ・モルモン」は、ウガンダ人をステレオタイプ化して嘲笑するような表現を改めた。「ハミルトン」では、アメリカ独立宣言の起草者で第3代大統領のトーマス・ジェファーソンが、奴隷所有者でもあった事実を前面に出す演出を取り入れた。


地方公演ではジョー(左)の性別はノン・バイナリーだったが、ブロードウェイでは女性に変更され、批判が巻き起こった(『ジャグド・リトル・ピル』より)(Photo by Matthew Murphy)

人種差別のもたらす悲劇を描いた「アラバマ物語」は、警察に殺された黒人奴隷トムの存在を最後のシーンで強調し、ディズニーも「ライオン・キング」と「アラジン」に一部改訂を施した。さらに、「ジャグド・リトル・ピル」は、ジェンダー・アイデンティティに関する描写をも掘り下げた。

こういった公正さへのアウェアネスが、ブロードウェイや演劇界に限らず、あらゆる分野で目を背けては通れない理念になりつつあることは、パンデミックという不幸が生んだ数少ない利点である。(次ページへ)

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