2019年11月29日号 Vol.363

ドラマティックな展開
チャイコフスキー円熟期の作品
オペラ「スペードの女王」


Tchaikovsky's "The Queen of Spades." Photos: Ken Howard/Metropolitan Opera




亡くなる3年前、チャイコフスキー50歳という円熟期の作品のひとつ。前年、バレエの名作「眠れる森の美女」を発表したチャイコフスキーのこの作品の初演は大成功を収めている。原作はアレクサンドル・プーシキンの短編小説で、チャイコフスキーの弟モデストが台本を手掛けた。同じプーシキン原作の「エフゲニー・オネーギン」は、ロマンティックな作風であるが、こちらはぞっとするスリラーのドラマティックな展開となっている。
METでは201 1年以来の再演。演出のモシンスキーは、METで「ルイザ・ミラー」、「オテロ」、「ナブッコ」などを手掛けたロシア系ユダヤ人。
指揮のぺトレンコは、1976年レニングラード生まれ。圧巻の演奏で世界を席巻し、人気上昇中で今回METデビューを果たす。
主人公、ゲルマンに扮するアントネンコは、高い歌唱技巧に加え、全7幕全てに出演するという長丁場の難役に挑む。
スタッフがロシア系で固められた中、リーザ役に抜擢されたのは、ノルウェー出身のリーゼ・ダヴィドセン。世代交代を代表する期待の若手のMETデビューとなる。
マーク・トンプソンの豪華絢爛な衣装と絵画のような舞台美術も楽しめる。

▼あらすじ
18世紀末のペテルブルク、貴族社会を背景にした恋愛悲劇。伯爵夫人は、かつてベルサイユ宮殿でのトランプの賭けで負けないカードの秘密を使って大勝する。野心家の近衛士官ゲルマンは、身分違いの伯爵夫人の孫娘リーザに恋をし、富を得るためトランプ賭博で絶対に負けない「3枚のカードの秘密」を探ろうと伯爵夫人に近づく。ゲルマンに脅された伯爵夫人は恐怖のあまり死んでしまうが、なんと夫人の亡霊が「カードの秘密」を教えてくれる。一方リーザは、恋人にとって大事なのは伯爵夫人の必勝法の秘密だったことを知り、川に身を投げてしまう。正気を失ったゲルマンは、秘密の教え通りに全財産をエースに賭けるが、手にしたカードは何故かスペードの女王だった。復讐を遂げた伯爵夫人の幽霊の哄笑を前に、ゲルマンは自らの命を差し出してリーザやその婚約者エレツキーの許しを乞う。一同はゲルマンの痛めつけられた魂に祈りを捧げる。(針ヶ谷郁)

THE QUEEN OF SPADES ロシア語上演
■11月29日、12月2日/5日/8日(M)/14日(M)/18日/21日
■ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
■初演:1890年12月19日ペテルブルク、マリインスキー劇場
■演出:エライジャ・モシンスキー
■舞台美術/衣装:マーク・トンプソン
■指揮:ヴァレリー・ぺトレンコ(METデビュー)
■配役:ゲルマン:アレクサンドルス・アントネンコ他
    リーザ:リーゼ・ダヴィドセン(METデビュー)
    伯爵夫人:ラリッサ・ディアドコワ
    トムスキー:アレクセイ・マルコフ
    エレツキー公爵:イーゴル・ゴロヴァテンコ(METデビュー)
■会場:The Metropolitan Opera
 30 Lincoln Center Plaza
www.metopera.org



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