2022年11月25日号 Vol.435

インタビュー:大九明子 監督
映画 [ウェディング・ハイ]

「女性の多様な生き方を滑り込ませ」

上映会場で(Photo by Hiroshi Kono)

同映画祭でオープニングを飾ったコメディ・エンターテイメント映画「ウェディング・ハイ」。当日は雨にもかかわらず多くの映画ファンが集結、上映後には日本から駆けつけた大九明子(おおく・あきこ)監督を温かい拍手で迎えた。

『ウェディングハイ』とは、結婚式を間近に控えた新郎新婦が幸せのあまりハイテンションになり、周囲に迷惑行動をとってしまう状態を表した和製英語。本作「ウェディング・ハイ」は、お笑いの天才、バカリズムが脚本を担当。結婚式に人生を捧げるウェディングプランナーに扮する篠原涼子を始めとした豪華キャストが繰り広げる笑いと感動のオーケストレーションだ。



「至ってシンプルだった」というお笑い直球ど真ん中を攻めるシナリオに、大九監督は、畳み込むような歯切れよいカットと鮮やかな映像で、結婚式を舞台にした人生ドラマを作り上げた。

「通常、脚本は自分で書きますが、本作の企画を頂いた時点で既に第六稿までのシナリオがありました。私の役目は、映画監督として与えられた隙間に如何に私なりの笑いと思いを滑り込ませていけるかということでした」

結婚式に出席した個性的なキャラクターたちが、招待されるまでの経緯を写真、動画、SNS投稿などの回想シーンで巧みに繋ぎ、次から次へと語り繋いでいく。テンポの速さに置いてけぼりになりそうだが、場面の転換を滑らかに流れる音楽、芸術的と言える鮮やかな映像と演出を散りばめることで、笑いのローラーコースターに乗せた観客を、飽きさせることなくグイグイとエンディングまで引っ張っていく。

「これまでの制作でも、少しふざけ気味にアプローチしたり、現場や編集でも笑いを織り交ぜようとしたり。自分が笑いたいから笑いを探りに行く、という癖があるんです」と話すが、実際のところ単にお笑いが好きなだけではないようだ。

大九監督が結婚をテーマにした一番好きな映画はスサンネ・ビア監督の「アフター・ウェディング」で、非常に暗い作品だと言う。「もし、私が同じテーマで映画を作ったら、ものすごく重苦しいものになっていたと思います」。そんな「陰」の要素を秘めた監督と、笑いの王様バカリズムが生む「陽」の脚本が、心地良いコントラストを生み出している。

現代社会において結婚式とは、男女だけではなくLGBTQのカップルでも行われるが、「日本は制度としての結婚に問題がありすぎる」と熱弁する。

「本作を結婚礼賛だけにはしたくありませんでした。映画を見て、怒りを覚えるとか、主人公が許せないとか、そういう感情が生まれるのは良いのですが、観客に、自分との接点が全くない、つまり置き去りにされたと思わせることだけは絶対に避けたかった」

そんな監督が描くキャラクターには、各々が感じる、悲しみ、苦しみ、そして笑いと「栄光」が共存、誰もが少なからず輝いて見える。主人公はバツイチ・独身という設定だ。

「結婚式の仕事をしているからと言って、決して結婚が全てと言うわけではなく、女性の生き方の多様性を滑り込ませたいという思いがありました。この作品は、披露宴という特別な一日の為だけに、全力で頑張っている人たちの物語でもあります」

人生において「結婚」は大きな意味を持ち、「結婚式」もまた、人生の重要な一ページを担っている。この「結婚式」という大河ドラマは、新郎新婦だけではなく、未婚、既婚に関わらず、出席者ひとり一人が作り出しているものであること。式に出席していない人物でさえも、ウェディング・プランナーがプランしきれないハプニングを引き起こすことがあることを、大九監督は実にドラマチックなコメディとして再構成。監督が意図した通り、誰も取り残されることがない宴「ウェディング・ハイ」を楽しむことができるだろう。(河野洋)


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