Niagara Falls I, 1985. Courtesy Shigeko Kubota Video Art Foundation © 2021 Estate of Shigeko Kubota / Licensed by VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
2年前の増改築でお披露目されたMoMA4階の「スタジオ」は、ちょっとお洒落な空間だ。53丁目に面した総ガラスの壁面を背景に、パフォーマンスやメディアアートが紹介され、その都度、印象的な時空間を創出してきた。いま、このスタジオとそれに続くギャラリーの一室で、久保田成子(1937〜2015)のミニ回顧展が開かれている。映像ポエム「自画像」と、70年代半ばに始まるビデオ彫刻の代表作6点の展示である。
Video Haiku-Hanging Piece, 1981. Courtesy Shigeko Kubota Video Art Foundation © 2021 Estate of Shigeko Kubota / Licensed by VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
映像自体の内容やメッセージ性に重きがあるのではない。実際には、旅日記のように撮影された土地や人々への久保田の思いが込められているようだが、画像は編集され、抽象化されている。モニターも、逆さまだったり斜めだったり、人の目から隠されている。そう、観客が目にするのは、水面や鏡面、立体の湾曲面に反射するイメージの方だ。そこには、自分の姿が映り込み、「ビデオ俳句」のように、展示室の一角にカメラが設置され、観客の動きをライブフィードで捉える作品もある。視覚や視角を刺激する、何と重層的な作りであることか。
Duchampiana: Nude Descending a Staircase, 1976. Collection of the Museum of Modern Art, New York © 2021 Estate of Shigeko Kubota / Licensed by VAGA at Artists Rights Society (ARS), NY
60年代後半、ソニーが開発した一般向けのビデオカメラ「ポータパック」は、新しいアート表現を模索するアーティストたちの格好の手段となった。ビデオテープは、フィルムと違って、編集が自在だという。画像の色やシェイプ、スピードを極端にデフォルメする「パイク阿部シンセサイザー」(阿部修也との共同開発)の技法は、久保田の「自画像」に見ることができる。