2022年11月11日号 Vol.434

社会的弱者にスポット
「水俣病」を世界へ知らしめ
ドキュメンタリー映画作家「土本典昭」

①「水俣 ─患者さんとその世界─」Image courtesy of Siglo, Inc.

アストリアの映像博物館「ミュージアム・オブ・ザ・ムービング・イメージ」(MoMI)で11月12日(土)から27日(日)まで、日本を代表するドキュメンタリー映画作家、土本典昭(つちもと ・のりあき、1928〜2008)作品を特集する。1960年代から80年代まで約30年間に制作された12作品を、日本語・英語字幕で紹介する。



土本は、水俣病(メチル水銀に汚染された海産物を食べたことにより集団発生した公害病)問題に取り組んだ監督として知られ、代表作「水俣 ─患者さんとその世界─」=写真①=は、水俣病を世界に知らしめた1本だ。モントリオール世界環境映画祭グランプリ(1973年)、ベルン映画祭銀賞(1972年)、マンハイム・ハイデルベルク国際映画祭フィルムデュキャット賞(1972年)などを受賞し、高い評価を受けた。

水俣第2作は「水俣一揆 ─一生を問う人びと─」。水俣病裁判で患者の訴えを認めた熊本地裁は、水俣病を引き起こしたチッソ株式会社へ慰謝料の支払いを命令。判決後、東京のチッソ本社で展開される患者と会社との交渉を、赤裸々に記録した問題作。

その他、水俣関連作としては、水俣病が発生した不知火海で生活する人々を追った「不知火海」、成人した胎児性水俣病の患者たちが「一人前の大人として何ができるか」と、石川さゆりショーを企画した活動記録「わが街わが青春―石川さゆり水俣熱唱―」、広島での被爆体験を絵画にした丸木夫妻が描いた水俣の図を軸にした「水俣の図・物語」などが上映される。

② 「シベリヤ人の世界」Image courtesy of Toho Stella

土本作品では、多くの「社会的弱者」にスポットが当てられている。

日本の大学で、文部省国費留学生として学んでいたチュア・スイ・リンさんの物語「留学生チュア スイ リン」。自身の信念に基づいた政治活動が発端となり、留学生の身分を抹消されたチュアさんと、彼を支援する学生たちの姿を描く。

1967年、ロシア革命50周年を機に、シベリアを訪問した旅の記録「シベリヤ人の世界」=写真②=は。工場でバイトする大学生、町の結婚式、軍事パレードなど、貴重な現地の様子と人々の生活を追う。

1968年の京大全共闘運動の様子、「日本のゲバラ」とも呼ばれた京大助手・滝田修(後に指名手配され逃亡、逮捕)の言動、人間性を間近で捉えたドキュメンタリー「パルチザン前史」。

1981年、下北半島の漁村・浜関根に、原子力船「むつ」の新母港を建設するという計画が浮上。「海盗り―下北半島・浜関根―」=写真③=は、科学技術庁、原子力船事業団、青森県、県漁連、むつ市による「海の盗りあい」を記録した。

③「海盗り―下北半島・浜関根―」Image courtesy of Siglo, Inc.

アフガニスタンからソ連軍が撤退し始めた1988年5月から12月頃まで、現地を取材し制作した「よみがえれ カレーズ」。内戦で傷付いた祖国で、逞しく生きる人々を捉えた。

土本が依頼され制作したものの、クレームが付き、当時は放送・上映されなかった2作品「ドキュメント 路上」と「東京都」は2本立てで紹介される。時代は東京オリンピック直前で、都市開発で刻々と変化する街、地方から上京する人々を捉えた異色作。

詳細はウェブサイトで確認を。

NORIAKI TSUCHIMOTO
■11月12日(土)〜27日(日)
■会場:Museum of the Moving Image(MoMI)
 36-01 35 Ave, Astoria
■一般$15、学生/シニア$11
 3-17歳$9、MoMI会員$7
https://movingimage.us/series/noriaki-tsuchimoto

★上映作品(カッコ内は英題)(公開年)
■11月12日(土)
◯1:00pm ドキュメント 路上
※二本立て (On the Road: A Document)(1964)
東京都(Tokyo Metropolis) (1962)
※「東京都」は土本典昭、熊谷博子、アブドゥル・ラティーフの共同監督作
◯2:30pm 留学生チュア スイ リン
(Exchange Student Chua Swee-Lin) (1965)
◯4:00pm シベリヤ人の世界
(The World of the Siberians) (1968)

■11月13日(日)
◯1:00pm パルチザン前史
(Prehistory of the Partisans)(1969)
◯3:30pm 不知火海(The Shiranui Sea) (1975)

■11月18日(金)
◯6:30pm 水俣 ─患者さんとその世界─
(Minamata: The Victims and Their World) (1971)

■11月19日(土)
◯1:30pm 海盗り ─下北半島・浜関根─
(Umitori: Robbing the Sea at Shimokita Peninsula) (1984) 
◯4:00pm 水俣一揆 ─一生を問う人びと─
(Minamata Revolt: A People's Quest for Life) (1973)

■11月20日(日)
◯1:00pm わが街わが青春 ─石川さゆり水俣熱唱─
(My Town, My Youth) (1978)
◯2:00pm よみがえれカレーズ
(Afghan Spring) (1989)
◯5:00pm 水俣の図・物語
(The Minamata Mural) (1981) 

■11月26日(土)
◯1:00pm 不知火海(The Shiranui Sea) (1975)

■11月27日(日)
◯1:00pm 水俣 ─患者さんとその世界─
(Minamata: The Victims and Their World) (1971)


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