2023年11月10日号 Vol.458 |
芸術とは生活そのもの
日常の「気付き」投影
画家・川植隆一郎
Sky School
「おばあちゃんが、僕を膝の上で寝かしつけながら日本画を描いていたという記憶があります」と話すのは、ブルックリンを拠点に活動する画家・川植隆一郎(かわうえ・りゅういちろう)。今年4月から松山智一スタジオに所属、日々研鑽を積んでいる。
「物心がついた頃には絵を描いていました。恐竜図鑑、シートン動物記、ファーブル昆虫記、またアニメや漫画(ONE PIECE)などの影響が大きいと思います」
絵に描いたようなおじいちゃん子で、じっとすることが出来なかったやんちゃ坊主。「親には迷惑をかけたかな」と笑う。
生まれも育ちも大阪。高校卒業後に地元を離れ、富山大学芸術文化学部へ入学した。
「大学時代、金沢出身の洋画家・鴨居玲(かもい・れい)の展示を見て衝撃を受けました。初めて絵を見て涙したのですが、それ以降、絵を見て泣いたことはありません」。鑑賞者を泣かせる程の力を、絵が持っているという事実を体感した瞬間だった。
大学卒業後は富山でアート活動を開始。当初はバイトをしながら制作していたが、2年後には「作家」として独立。個展やグループ展など、精力的に活動した。
今年5月、マンハッタンでの個展会場で
転機が訪れたのは2019年。初めてニューヨークを旅行した時だった。
「2週間ほどニューヨークに滞在した際、『この地でアーティストとして挑戦してみたい!』と強く思いました。現在、所属させていただいている松山スタジオで、チームの一員として世界を相手にした仕事に携わりたいと思い、ニューヨークへの移住を決意しました」
生活しているだけでも日本と異なることが多い上、街中に溢れるアートを肌で感じるという川植。
「僕は常日頃から、芸術とは『生活そのもの』であると考えています。キャンバスに向かう時間以上に、日常での『気付き』を大切にして生きています。それらは僕の人生を豊かにし、裏切ることはありません」
「画家」にとって、技術や豊かな感性、独創的なセンスは不可欠だ。さらに絵を描く意欲、描き続けるという原動力も必要となる。
「ワクワク出来る絵を描けている時、それが僕の人生で掛け替えのない時間です。キャンバスへの下書き転写などといった単純作業をしている時には少し辛いと感じることもありますが、その工程を乗り越えれば『ワクワクすること』が待っていると分かっています。良い作品を作るためには、めんどうな工程が沢山あることを理解した上で、『ワクワクする時間』を楽しんでいます」
何気ない日常にちょっとした変化をもたらす「気付き」と、掛け替えのない「ワクワクする時間」。これが川植の「絵の力」であり「個性」になっている。
Hmart Rhapsody
12月15日(金)まで、グランドセントラル駅構内のカフェ・グランピーで、川植の作品が披露されている。新作2点、旧作4点はすべて来米後に手がけたものだ。
「ニューヨークで僕が見つけた『気付き』に基づいて描いた作品群で、日本では得ることが出来ないインスピレーションが自然と反映されています。作品を通してそういった気付きを、鑑賞者と『共有』できれば幸いです」
日本以外は、アメリカとカナダにしか行ったことがないという川植。
「様々な国を訪問し、多くの人々、多様な文化に触れてみたい。自らにできる表現を常に模索し、国籍・性別・世代を超えて人の心を動かせるような作品を発表していきたいです。自分の作品には嘘をつかない人間でありたい」と結んだ。
■11月1日(水)〜12月15日(金)
■会場:Café Grumpy - Grand Central Terminal:
89 E. 42nd St.
■観覧無料
★川植隆一郎HP:
https://ryuichiro-kawaue.jimdosite.com
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