2019年11月1日号 Vol.361

レビュー「杉本文楽 曽根崎心中」
神秘的な演出と人形遣いの熟練技で
「人形劇」が「人間ドラマ」に


舞台の様子。Sugimoto Bunraku Sonezaki Shinju © Yuji Ono / Courtesy of The Japan Foundation.




舞台上で挨拶する杉本博司氏(左)と人間国宝の鶴澤清治氏


お初と徳兵衛を担当した人形遣いたち。上演後のミート&グリートで(Photo by Yomitime)


日本を代表する伝統芸能のひとつ、人形浄瑠璃文楽の「杉本文楽 曽根崎心中」が10月19日(土)から11月24日(日)まで、リンカーンセンター・ローズシアターで上演された。10周年を迎えたリンカーンセンターの恒例イベント「ホワイト・ライト・フェスティバル」でのオープニングを、華々しく飾った。

「人形劇」といえば大半は「子ども向け」だが、文楽は「大人向けの演劇」であることに間違いはない。物語の核心である「心中」に至るまでの乱雑で運命的な人間ドラマを、太夫、三味線、人形遣いが一体となって描いていく。

漆黒の闇の中、ステージに三味線奏者が浮かび上がり、場内に乾いた三味線の音色が響く。簡素な舞台装置と、人形の白さをより強調させようと暗く落した照明が、物語を神秘的に演出する。第一幕「観音様」でのCGを組み合わせたステージングでは、斬新な空間を生み出していた。

操り人形師たちは、右手と頭を担当する「主遣い(おもづかい)」、左手と小道具を担当する「左遣い(ひだりづかい)」、両足を担当する「足遣い(あしづかい)」の3人が1体の人形を操作。「司令塔」となる「主遣い」の指示に合わせ、人形に命が吹き込まれていく様子は「お見事!」と言う他ない。徳兵衛が帽子を外す、お初が帯を解くなど複雑な動きなどもなめらか。「人形劇」を見ているはずが、いつの間にか生身の「人間ドラマ」のように感じるのは、息の合った3人の熟練技の賜物だ。ちなみに、「足遣い」の修行は10年といわれ、足を踏みならして音を出す「足拍子」も、シーンの重要な要素になっていた。

「杉本文楽 曽根崎心中」のストーリーはシンプル。現世では結ばれない徳兵衛と恋人のお初が愛を完結させるため「心中」を選択する。儚くも悲しいラブストーリーだが、時折コミカルなシーンもあり、笑い声も上がった。

公演後はシアター前のホールでミート&グリートが行われ、主人公のお初と徳兵衛が参加。美しい人形を近くで見ようと、大勢の観客たちに囲まれた。

杉本文楽 曽根崎心中:近松門左衛門の人形浄瑠璃に、現代美術作家・杉本博司が新しい魅力を注ぎ込んだ渾身の作品(2011年8月初演)。杉本のコンセプトに賛同した鶴澤清治(人間国宝)が共作、現代美術作家・束芋の映像作品も登場する。ストーリーは元禄16年(1703年)、実際に大阪で起きた無理心中事件がベース。醤油商「平野屋」の手代・徳兵衛と、その恋人・遊女お初の恋物語が綴られる。


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