2019年10月18日号 Vol.360

バラエティ豊かな音楽部門
日本から薩摩琵琶、尺八、能管奏者など
「ホワイト・ライト・フェスティバル」(後編)


Jordi Savall (Photo by David Ignaszewski)


Orchestra of the Age of Enlightenment (Photo by Eric Richmond)


Manganiyar Seduction (Photo by Sinbad Phgura)


今年の「ホワイト・ライト・フェスティバル」の音楽部門は、様々なジャンルから、ニューヨークでもなかなか鑑賞する機会の少ないアーティストたちやプログラムによるコンサートが数多く企画されている。その中から特に気になる4つの公演について紹介したい。

指揮者・ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者のジョルディ・サバールが中心となって上演するのが「ジャーニー・トゥ・ザ・イースト(Journey to the East)」。
日本にキリスト教を最初に伝えた人物として名高いフランシスコ・デ・ザビエルは、イエズス会創設メンバーの一人であり、16世紀に宣教師として主にアジアで活躍した。そのザビエルが宣教活動のために立ち寄ったインド、マレーシア、中国、日本などの音楽を演奏する。
出演者はサバールのほか、サバール自らが創設したオリジナル楽曲使用によるアンサンブルのエスペリオンXXI、やはりサバールによって結成されたボーカルグループのラ・カペラ・レイアル・デ・カタルーニャが登場。日本からは声明・薩摩琵琶奏者の上田純子、尺八奏者の関一郎、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者の平尾雅子、篠笛・能管奏者の鯉沼廣行が招聘されて演奏。また、インドからタブラ奏者のプラブー・エドゥアール、アフガニスタンからサロード奏者のダウド・サドザイらが参加する。

同じく古楽器によるコンサートで注目したいのは、イギリスのアンサンブル、ジ・エイジ・オヴ・エンライトメント・管弦楽団/合唱団による「グロリア(Gloria)」と題されたコンサート。
元来は1986年にパーセルやヴィヴァルディなどのバロック音楽を演奏する古楽器演奏団体だったが、現在はベルリオーズやワーグナーなどの後期ロマン派作曲家の作品なども多数演奏するようになっている。
このコンサートでは、同楽団の得意とするバロック音楽を2曲演奏。一つはヴィヴァルディの書いた宗教音楽の中ではおそらく最も有名な曲である「グローリア」。もう一つはペルゴレージの大作にして名曲、「スターバト・マーテル」。スターバト・マーテルとは、中世13世紀に書かれたカトリック教会聖歌のひとつ。内容はイエス・キリストが磔刑となった際に、母であるマリアが受けた悲痛を詠んだもの。日本語では「聖母哀傷」あるいは「悲しみの聖母」などと訳されている。以来、ペルゴレージだけでなくパレストリーナ、ヴィヴァルディ、ハイドン、プーランクなど数多くの大作曲家がこの詩に曲をつけてきたが、ペルゴレージの作曲したものは最も優美なもののひとつ。この名曲を、一流の古楽器アンサンブルによる演奏で堪能できるチャンス。

その「スターバト・マーテル」だが、この楽曲タイトルで、もう一つのコンサートが行われる。こちらは、スコットランド出身の現代作曲家、ジェイムズ・マクミランの手によるもので、2015年に作曲されている。
演奏はイギリスのケンブリッジに拠点を置く室内管弦楽団、ブリテン・シンフォニアと、主に宗教曲を演奏するイギリスの合唱団、ザ・シックスティーンがとりもつ。
指揮は、ザ・シックスティーンの指揮者、ハリー・クリストファーズ。これまでに完成度の高い宗教的な作品を発表し続けており、聴衆及び批評家からの評価が高いマクミラン。ニューヨーク初演となるこの「スターバト・マーテル」。先に紹介したペルゴレージ版と共に、非常に楽しみだ。また、同じくニューヨーク初演となるマクミランの「ミゼレーレ」も演奏される予定。

最後に紹介したいのが、北西インドからやってくるスーフィズム・ムスリム(イスラム神秘主義)の楽士集団、ザ・マーンガニヤール・セダクション(The Manganiyar Seduction)の公演。
「マンガニヤール」とは、インド北西部ラジャスタン州のタール砂漠における、イスラム教徒であると同時にヒンドゥの王族や様々なパトロンに仕え、口承にて受け継がれた音楽を演奏することを生業としている音楽家のこと。世界の何処の音楽とも違う、独特でインパクトの強い「ラジャスタン音楽」は、「知る人ぞ知る」民族音楽として有名。世界中にファンがいる。ムスリムとヒンドゥーとの双方の伝統を受け継ぐこの音楽集団が奏でる繊細かつ刺激的なエキゾティシズム。またとない貴重な機会だ。

バラエティに富んだ内容の今年のホワイト・ライト・フェスティバルの音楽部門。一つでも多くのコンサートに行ってみたい。(木川貴幸)

White Light Festival
■10月19日(土)〜11月24日(日)
■212-721-6500
www.lincolncenter.org

Journey to the East
■10月24日(木)7:30pm
■会場:Alice Tully Hall
 Broadway at 65th St.
■$35〜

Gloria
■11月21日(木)7:30pm
■会場:Alice Tully Hall
 Broadway at 65th St.
■$50〜

Stabat Mater
■11月7日(木)7:30pm
■会場:Alice Tully Hall
 Broadway at 65th St.
■$50〜


The Manganiyar Seduction
■11月6日(水)〜9日(土)7:30pm
■会場:Rose Theater
 Broadway at 60th St
■$35〜



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