2022年10月14日号 Vol.432

武道の精神と現代ニーズに合った
「親しまれる空手」を
五嶋龍(日米武道館 創設者・指導者)

「生徒とは型にハマった師弟関係にはしたくない」と五嶋。Photo by KC of Yomitime

バイオリニストとして、数々の世界的なオーケストラ、指揮者と協演、リサイタルも意欲的に展開してきた五嶋龍が、今年6月、空手道場「日米武道館(JAPANESE AMERICAN BUDO KAN)」を設立した。現在、道着に身を包み汗を流している。

五嶋は、1988年ニューヨーク生まれ。幼少期よりバイオリンにいそしみ、6歳で札幌パシフィックオーケストラと協演し、デビューを果たす。以降、精力的にバイオリニストとして活動し、コマーシャルやテレビ番組の司会を務めるなど、高い人気を誇っていたが、2020年、デビュー25周年の日本全国ツアーを機に、一旦、音楽界と距離を置くことを決意。きっかけは、パンデミック中に起きた、ある「気付き」だったという。



「コロナ禍のロックダウンで、音楽に限らず、ほとんどの人が外出も自由にならない毎日でしたよね。僕も、改めて『音楽を続けるべきなのか? 自分がやりたいことは他にあるのではないか?』と考えていた時、空手の練習を自分の部屋でやってみて、『あっ、これが一番やりたいことなんだ!』と、気が付きました。バイオリンを弾いていた頃から違和感がまったく無かった訳ではなかったので、気持ちの切り替えはスムーズにできましたね。やはりパンデミックで自分を見つめ直す時間があったことで、決断ができたのだと思います」

「武道」とは、自分自身を護るという言わばサバイバルで、音楽では感じられない部分が多々ある、と五嶋は続ける。

「人生にはいろいろなことが起こります。職業上や人間関係などで、頭の中を簡単に整理できないこともある。フラストレーションが溜まって世界が複雑になってきますが、道場に入り、組手をやって相手に集中していると、『悩み、もがいていることなどは、大したことでもない』と思えてくる。それこそが僕の『やりたかった』こと。武道が持たらすメンタリティーの持ち方に気が付いた時、これを皆に伝えたい、と思ったのです」

Photo by KC of Yomitime

5歳から続けてきた空手は現在、日本空手協会と全米空手連盟の両認定3段を保持。また、世界空手道チャンピオンシップなどで杯を受け、これまでにも空手の基本や心構えなどを指導していた。

「日本では師範がいて、生徒が並んで練習をします。皆さん武道と言えば、そんな道場の風景を連想されるのではないでしょうか。決してそれを否定する訳では有りませんが、僕の指導方法は、できる限り運動やスポーツに苦手意識を持つことがないように心がけ、長所をもっと伸ばせるように努めています」

指導前、五嶋は生徒たちに、「何か気になることは? 今日は何を重点的に練習したい? ストレス発散? 体力アップ? 空手技術の向上? それとも?」と尋ね、その部分を中心に練習する。用意したカリキュラムもある上で、一人ひとりの要望を満たす、それが同館最大の特徴だ。

「同時に、『師弟関係』という型にはまったものにはしたくないと考えています。元来の空手武道の精神性に加えて、現代のニーズに合った『親しまれる空手』の指導を行っていきたい」

五嶋は練習中、生徒に「That's it」、「That's the one」とよく声を掛ける。

「生徒にしっかりと伝えることで、瞬間的に彼らは『これが正しい!』と理解し、体と脳に残すことができる、それが生徒たちのポテンシャルを伸ばす近道だと信じています。コンテンツは日本の伝統的な古武道ですが、新しいアプローチで指導していきたい」と、指導理念を語る。

Photo by KC of Yomitime

空手の指導者として活動する一方で、生徒として柔道の稽古にも通っているそうだ。

「武術のタイプは違っていても、基本となるムーブメントには共通するところがたくさんあります。柔道の受け身を知ることで怪我のリスクも軽減できる。そういった利点を空手にもどんどん取り入れていきたい。それが道場名『武道館』の由来です」

「楽しんで学ぶことがモットー」だと考えている五嶋ならではのアプローチだ。

五嶋はまた、ハーバード大学の学友たちと、アークトップ社(ロサンゼルス)やゴールデン・パーム社(ガーナ)を共同経営。さらに、視聴覚芸術を通じて触れ合うコミュニティをつくるプロジェクト「音道場ーノデス(Otodojo-Nodes)」の作品が、日本最大級のNFTアートギャラリー(東京タワー)が行う「フューチャーアートギャラリープロジェクト」で展示されることも決定している。

「やりたい事はたくさんあります。ですがまずはここ、ニューヨークでしっかりと道場を続けていくことが先決です」と笑う。

指導者の道を歩み始めた五嶋龍。バイオリニストとして舞台に立ち、客席に視線を投げながら「一緒に楽しもうよ!」と問いかけるように演奏していた姿が、道着の下に見え隠れしていた。(ケーシー谷口)

日米武道館(JAPANESE AMERICAN BUDOKAN)
■住所:38 W. 32nd St. #1309 (Floor 12A)
■連絡先:info@jabudokan.com、Tel:603-803-3757

★クラスのスケジュールおよび詳細は下記ウェブサイトで確認を
www.jabudokan.com


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