2018年10月5日号 Vol.335

ギリシャ大使館で個展
描く喜びを見つけること
版画家・彫刻家 野田正明

野田正明
今回、展示されるEvolutionシリーズの前で(自身のアトリエで)

野田正明
ギリシャ・アメリカン大学のキャンパス(アテネ)「ラフカディオ・ハーンの開かれた精神」

野田正明
宍道湖畔に設置された「ラフカディオ・ハーンの開かれた精神」


ニューヨークをベースに活動する版画家・彫刻家の野田正明氏=写真=の個展「螺旋の交合(Spiral Interaction)1995〜~2018」が、10月15日(月)から24日(水)まで、アッパーイーストのNYギリシャ大使館で開催される。ギリシャ人ではないアーティストが、同大使館で個展を行ったことはなく、前例のない快挙だ。
オープニングレセプションは10月10日(水)午後6時から8時まで。参加無料だが、別記Eメールアドレスまで要予約。

野田氏とギリシャとの関係は1995年まで遡る。NYで活動するギリシャ人アートディーラーと知り合い、同国を訪問。ラフカダでラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の生家を訪れ、その足跡を巡ったことがきっかけで、ハーンに興味を持つようになる。ギリシャと日本の知られざる接点を解き明かそうとするうち、自然と二国間の文化交流に貢献したいと考えるようになった。
2009年、「日本ギリシャ110周年友好記念」で、ギリシャ・アメリカン大学のキャンパス(アテネ)へ「ラフカディオ・ハーンの開かれた精神」の彫刻設置と展覧会が、翌年には「小泉八雲来日120周年」記念として、松江城天守閣で展覧会を開催。宍道湖畔にはアテネと同型の彫刻が、両国が呼応するように設置されている。

近年、野田氏の作品には彫刻が多かったが、今展は絵画15点がメインで、彫刻4点も披露される。
「僕の原点は絵画。今に続く創作スタイルと並行して23年前、予定を立てず奔放にキャンバスに色をぶつけ、『無意識』から何が生まれるかを実験的に始めました。それが次第に変化・進化すると、また自分の中に新たな構成が誕生する。それまでは、起承転結の上で仕事を進めていたのですが、この方法だと自分でも何ができるかわからないんですよ(笑)」。擲り描きから始まり、到達点が見えない、不安定で収拾がつかなくなる危険な方法だと自ら分析する。「でも僕は、メインの創作活動があったからこそ、この実験的な制作ができた。面白いのは、この作風が一人歩きを始めたことです。無意識の中でどう作っていくかを発見しながら、ゴールを目指す。僕のキャリアにはなかった方法でしたので今まで発表しませんでした。ですが、この実験を継続したことで『新しい画風が確立された』と確信が持てた。ギリシャ大使館が、発表の機会を与えてくれたことに感謝しています」
実験を開始した当初から現在までの作品が系統立てて展示、満を持しての発表だ。「描く喜びを見つけることで、作品が自分を語ってくれる」と話す野田氏。無意識から生まれた初期作が、徐々に一つの画風として確立されていく過程に、野田氏の「内なる変化」が投影されている。「作品は水彩画ですが、『セオリー』というような決まり事はありません。最初は無作為でしたが、今は重層空間を表現しています。楽しみながらやっていますよ」と笑う。
「僕にとっては、これまでやって来た事へのチャレンジでもありました。では、やってこなかった事は何か? それが今回の作品群です。これから、まだまだ続けられると思っています」
終点も結末もない世界で創作し続けてきた野田氏。同展はその集大成であると同時に、新境地への幕開けでもある。
(ケーシー谷口)

■10月15日(月)~24日(水)
 9:00am〜2:30pm 土日休館
■レセプション:10月10日(水)6~8pm
 ※レセプション参加は6日までに要予約:rsvp.nyc@mfa.gr
■会場:Consulate General of Greece in New York
 69 E. 79 St.
■Tel: 212-988-5500


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