2019年10月4日号 Vol.359

信じる?信じない?
メンタリストに唖然
「ダレン・ブラウン:シークレット」


かっちりしたスリーピース姿に巧みな話術も…全て計算済み (All photos by Matthew Murphy)


観客が選んだ写真を目線やボディランゲージで当てる


観客が思い浮かべた人物を絵に描く。絵も上手い!


「メンタリスト」とは聞き慣れない言葉だが、心理学に基づいて暗示や錯覚、催眠術、マインドリーディングなどのテクニックを駆使したパフォーマンスを見せる人を指す。
英国人メンタリスト、ダレン・ブラウンによる観客参加型の「心理的イリュージョン」ショーがブロードウェイで始まった。ラスベガス的な派手なものではなく、見どころはダレン・ブラウンの磨き上げられたメンタリズムの技術。例えば、観客の名前や星座、秘密まで言い当て、観客が頭に思い浮かべた人物を透視する。常識では信じ難いことが次々に展開するのだが、ブラウンは「サクラはいない」と断言する。
問題は、内容を秘密にするよう観客全員が約束させられたこと。ネタバレぎりぎりで紹介してみよう。
まず、スクリーンに文章が現れる。
「ARE YOU RAEDY?」
…ミススペルに気付きましたか?ブラウンによると、人間の脳は文字の順が多少違っていても自動的に単語を認識し、無意識に情報の取捨選択を行うそうだ。
次に、観客全員を立たせて片手にコイン等を隠すよう指示がある。「○手に隠した人は座って下さい」の声でなんと8割ほどが一斉に座る。「僕の期待を裏切るように!」とたきつけられていたにもかかわらず、だ。次のラウンドで残ったのは、1000席強の劇場でほんの10人ほど。その理由は、どちらの手に隠すかブラウンが言葉巧みに誘導したため。自分に超能力があるのではなく、観客自身の脳の働きによって騙されるのだと彼は強調する。
休憩中、希望者は自分の秘密を書いた黒い封筒を提出する。ブラウンは封筒を手にしただけで、書いた人の性別や年齢を当て、本人を立たせて「農場に関すること?」「下着で何か失敗した?」と秘密を当てて行く。それがほぼ百発百中なのだ。休憩前、彼は「浮気をしている人は帰った方がいいですよ」とジョークを飛ばしていたが、ドキドキした客もいたのでは。
フィナーレでは、ショーのタイトル「シークレット」のもう一つの意味が明かされる。いやはや、超能力や超常現象に関心のない筆者でさえ、一瞬「もしかしたら」と思ってしまったショーだった。

ダレン・ブラウンはイギリスでは数々のテレビ番組を持つ有名人。舞台でもエンターテイメント部門でオリヴィエ賞を2度受賞。ネットフリックスの特別番組でアメリカにも浸透し始めた。
本作は2017年にオフブロードウェイ公演を行い、今回のブロードウェイ公演は、映画監督のJ・J・エイブラムス、「ハミルトン」のプロデューサーのジェフリー・セラーと演出家のトーマス・ケイルら錚々たるメンバーがプロデューサーである点も注目だ。
ブラウン本人とアンディ・ナイマン、アンドリュー・オコナーの脚本で、ナイマンとオコナーの演出、シンプルな装置デザインはLA在住の方剛(カタ・タケシ)。
ちなみに参加者は、ブラウンが投げるフリスビーをキャッチした客が自主的に舞台に上がるという形であるため、選ばれたらどうしようという心配は無用。
スプーン曲げのユリ・ゲラーや「ハンドパワー」のミスター・マリックを思い出したが(歳がバレますね)、ブラウンのスマートさは別次元。信用できそうな外見だと催眠術の成功率が上がるそうだ。
そういえば…。ショーの中でブラウンは何度か間違えていた。少し真実を混ぜると嘘が本当らしくなるとよく言うが、あれも彼の作戦だった訳だ。また、客を催眠術にかけて思い通りの答えを引き出していた場面もあったのではないか。全て後になって思い当たった。
そうなると、こんなトリックがあったのでは…、あの瞬間、もっと注意しておけば…、と気になって仕方がない。「二度観に行きたくなる」という催眠術だったとしたら…。ああ、してやられた。(高橋友紀子)

Derren Brown: Secret
■2020年1月4日(土)まで
■会場:Cort Theatre
 138 W. 48th Street
■$40〜
■上演時間:2時間30分
derrenbrownsecret.com


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