2018年9月7日号 Vol.333

あの映画がミュージカルに
キュートな新カップルに喝采
「プリティ・ウーマン」

プリティ・ウーマン
おなじみのニーハイブーツと超ミニスカート姿のヴィヴィアン(右)とエドワード(l to r): Andy Karl & Samantha Barks (All photos by Matthew Murphy, 2018)

プリティ・ウーマン
オペラ「椿姫」に涙するヴィヴィアンに心を動かされるエドワード

プリティ・ウーマン
ロデオドライブでのショッピングのシーンはお約束 Samantha Barks, Andy Karl & Company

プリティ・ウーマン
親友キットの夢はLA市警 Orfeh & Company


ジュリア・ロバーツを一躍トップスターにした1990年公開のロマンチック・コメディ「プリティ・ウーマン」のミュージカル版が先月開幕した。
娼婦ヴィヴィアンは裕福な企業買収家エドワードと一週間の契約を交わし、ハイファッションやオペラを経験、美しく変身する。彼女の純粋で温かい心は冷徹なエドワードを変え、ついに二人は結ばれる。まさに王道のシンデレラストーリーだ。

観劇前は、今の時代になぜこの作品なの? と正直疑問も感じていた。が、劇場でプレイビルを開き、時代の欄に「むかしむかし1980年代に」とわざわざ書いてあるのを見て腑に落ちた。これはおとぎ話という位置付けなのだ。正論やフェミニズムは束の間忘れて、近くて遠い80年代のフェアリーテールを素直に楽しむ。つまり、ジュリア・ロバーツの変身ぶりに憧れた気持ちを否定しなくてもいい…。そんな肩肘張らない作品が歓迎されている証拠に、連日ほぼ満席、劇場の週間売上高の記録を更新した。
有名なシーンや台詞、ヴィヴィアンの衣装のデザインまでほとんど映画のまま再現されている。それもそのはず、ミュージカル版の脚本は、映画版の監督ゲイリー・マーシャルと脚本家のJ・F・ロートン。それでいて現代の観客への目配りも忘れてはいない。ヴィヴィアンは現在の生活から抜け出したいと冒頭で高らかに歌い、親友で仕事仲間のキットの夢は警察官になること。夢をあきらめないでというメッセージが付け加えられている。そして、ヴィヴィアンよりもエドワードの方こそ変わるべき人間として自由な心を取り戻して行く様子に焦点が当てられる。
楽曲はミュージカル初挑戦のブライアン・アダムスとジム・ヴァランスの共作。80年代を彷彿とさせるパワーバラードが目白押しだ。演出・振付のジェリー・ミッチェルは「キンキー・ブーツ」など映画原作ミュージカルのベテランで展開のテンポが小気味良い。
注目のヴィヴィアン役は、28歳のイギリス人女優、サマンサ・バークス。映画版「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役では、「オン・マイ・オウン」は良かったけど美人という印象はなかったなぁと思っていたら、彼女がとっても素敵だった。輝くような笑顔の持ち主で、歌唱力も抜群。本人自身も性格が良さそうと思わせるひたむきさに溢れていて、ついヴィヴィアンを応援してしまう。
リチャード・ギアが演じたエドワード役は、ここ数年注目のアンディ・カール。2000年にブロードウェイで初舞台を踏んで以来、代役やアンサンブルで長年腕を磨き、2014年に「ロッキー」の主役の座を射止めた。当時39歳、ミュージカル俳優としては遅咲きだが、昨年は「恋はデジャ・ブ」に主演、今や堂々たるミュージカルスターである。ロバーツ&ギアのイメージがあまりにも強い役に果敢にチャレンジし、キュートさでは負けていないこの新コンビに喝采を贈りたい。余談だが、カール氏とキット役のオルフェは実生活では夫婦。舞台上で夫がラブシーンを演じることについてオルフェは「袖から見てるから大丈夫」と茶目っ気たっぷりに答えたそう。

今春に開幕した「マイ・フェア・レディ」、そして「プリティ・ウーマン」と、男女同権の見地からは首を捻る作品が続くことに対し、批判の声も上がっている。しかし、どちらも時代を意識した改変が施され、少しでも現代の価値観に近づけようという意思が確実に存在していることは、評価したいと思う。
(高橋友紀子)

Pretty Woman: The Musical
■会場:Nederlander Theatre
 208 W. 41st St.
■$42〜
■上演時間:2時間30分
prettywomanthemusical.com


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