2021年8月20日号 Vol.404

年内に39作品公演開始
熱い拍手で再開祝う
ブロードウェイ情報

「パス・オーバー」は、シカゴ、オフでも上演された(Photo by Joan Marcus)

「今夜、この瞬間、皆さんとこの街への感謝と喜びでいっぱいです」
8月4日の夜、劇作家のアントワネット・ンワンドゥは、劇場のバルコニーから観客に呼びかけた。彼女の戯曲「パス・オーバー」はこの日ブロードウェイでプレビュー初日を迎え、喝采の中、公演を終えたばかりだった。感極まったンワンドゥの挨拶は、多くのメディアやSNSで紹介された。

昨年3月に劇場街の灯が消えてから17ヵ月。やっと、ブロードウェイが復活した。本作は、演劇の最初の再開作品である。

9月中に「ハミルトン」、「ライオン・キング」などロングラン10本、新作6本が幕を開け、年末までに合計39本もの作品が公演を始める。少なくとも10月末までは、全劇場でワクチン接種証明書の提示が義務づけられ、着席中もマスクを着用しなければならない。12歳未満、健康・宗教上の理由でワクチン接種が不可能な場合は、陰性証明の提示が求められる。



パンデミックは、私たちの生活全般に様々な変化をもたらした。それは、ブロードウェイも例外ではない。
最も大きな点は、多様性や公平性に対する意識が高まったことだろう。「ブラック・ライブズ・マター」運動は、クリエイター、俳優、スタッフ等あらゆる面での長年の白人優位を見直すきっかけをもたらした。

その結果、年内に開幕する新作演劇7本全てがアフリカ系アメリカ人劇作家の作品という、前代未聞の出来事が起こりつつある。黒人の若者2人が暴力や不平等のない約束の地を夢見る「パス・オーバー」もその1本。今後、この奔流がアジア系へも波及して行くことを願うばかりである。

閉幕した「ウェイトレス」も返り咲く(Photo by Josh Lehrer)

4月、有名プロデューサーのスコット・ルーディンが部下にパワハラや虐待を尽くして来たことが暴露され、業界に激震が走った。ブロードウェイでは「ブック・オブ・モルモン」、「アラバマ物語」などの大ヒット作、映画界でも「ノーカントリー」や「ソーシャル・ネットワーク」などを手がけて来た大物中の大物である。

ルーディンは謝罪し、全ての作品の第一線から退くことを発表したが、すぐに公正な対応を講じなかった業界への抗議として、「ムーラン・ルージュ!」からカレン・オリヴォが降板。映画でニコール・キッドマンが演じた歌姫サティーン役で、トニー賞にもノミネートされたオリヴォの決断は大きな話題となった。

新しいサティーン役として、映画版にアンサンブルで出演したナタリー・メンドーザの抜擢が先ごろ発表された。

また、オンライン配信は存続し、舞台との共存を目指すスタイルが定着しそうだ。「カム・フロム・アウェイ」は、9月21日の公演再開に先立ち、10日からアップルTV+で配信を開始する。「ダイアナ」は、10月1日からネットフリックスで配信を始めた後、11月2日にプレビューを再開。開幕前の舞台が配信されるのは初の試みで、集客にどんな影響を与えるか注目だ。

しかし、再開後の展望は決して明るいとは言えない。デルタ株による感染拡大への懸念に加え、観客の3分の2は国内外からの観光客で、観光業界の完全な復活には数年かかるとされているからだ。さらに、以前は足繁く劇場に通っていたファンでも、劇場という「密」な場から足が遠のいているという事実もある。

「ムーラン・ルージュ!」の新サティーン役(Photo by Matthew Murphy)

だが、考えようによっては、地元の観客ベース拡大のチャンスでもあり、大幅な割引やキャンペーンが実施されるのではないかと大いに期待している。

プレビュー初日の数日後、筆者も「パス・オーバー」を観劇した。開演前「携帯電話をオフにして下さい」というアナウンスが始まると、客席は沸き立ち、歓声と指笛が鳴り響いた。幕が上がる前から、熱い拍手が客席いっぱいに広がっていた。(高橋友紀子)

★8月上演作品
Pass Over
■開幕8月22日(日)〜10月10日(日)※現在プレビュー中
■会場:August Wilson Theatre
 245 W 52nd St.
■$39〜
www.passoverbroadway.com

Springsteen on Broadway
■9月4日(土)まで
■会場:St. James Theatre
 246 W. 44th St.
■再販チケットのみ
デジタルロッタリー$80(手数料$5込み)
luckyseat.com
brucespringsteen.net

★年内のブロードウェイ再開スケジュール
(ミ)ミュージカル、(演)演劇、(特)特別イベント

(特)「スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ」上演中(9/4まで)
(演)「Pass Over」プレビュー中、9/12開幕(10/10まで)
(ミ)「ハデスタウン」9/2
(ミ)「ウェイトレス」9/2
(ミ)「ハミルトン」9/14
(ミ)「ライオン・キング」9/14
(ミ)「ウィキッド」9/14
(ミ)「シカゴ」:9/14
(演)「Lackawanna Blues」プレビュー9/14、9/28開幕
(ミ)「Six」プレビュー9/17、10/3開幕
(特)「アメリカン・ユートピア」9/17
(ミ)「カム・フロム・アウェイ」9/21
(演)「Chicken & Biscuits」プレビュー9/23、10/10開幕
(ミ)「ムーラン・ルージュ!」9/24
(演)「Is This A Room」プレビュー9/24、10/11開幕
(演)「The Lehman Trilogy」プレビュー9/25、10/14開幕
(ミ)「アラジン」9/28
(演)「Thought of a Colored Man」プレビュー10/1、10/31開幕
(演)「Dana H.」プレビュー10/1、10/17開幕
(演)「アラバマ物語」10/5
(演)「フリースタイル・ラブシュープリーム」10/7
(ミ)「ティナ」10/8
(ミ)「Caroline, or Change」プレビュー10/8、10/27開幕
(ミ)「ガール・フロム・ノース・カントリー」10/13
(ミ)「エイント・トゥー・プラウド」10/16
(ミ)「ジャグド・リトル・ピル」10/21
(ミ)「Mrs. Doubtfire」プレビュー10/21、12/5開幕
(ミ)「オペラ座の怪人」10/22
(演)「Trouble in Mind」プレビュー10/29、11/18開幕
(ミ)「Diana」プレビュー11/2、11/17開幕
(演)「Clyde’s」プレビュー11/3、11/22開幕
(ミ)「ブック・オブ・モルモン」11/5
(ミ)「Flying Over Sunset」プレビュー11/11、12/13開幕
(ミ)「Company」プレビュー11/15、12/9開幕
(演)「ハリー・ポッターと呪いの子」11/16
(ミ)「MJ」プレビュー12/6、2/1/22開幕
(ミ)「ディア・エヴァン・ハンセン」12/11
(ミ)「The Music Man」プレビュー12/20、2/10/22開幕
(演)「Skeleton Crew」プレビュー12/21、1/12/22開幕
※上記は8月16日時点の再開予定。予告なく変更される場合あり


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