2021年8月20日号 Vol.404

闇の世界で暗躍する人々
悲哀に満ちた人間模様を描いた「JOINT」

[インタビュー] 小島央大 監督
「演技」ではなく、役者の「個性」を追求

多種多様な人間が集まる東京。半グレ(暴力団に所属せずに犯罪を行う集団)、暴力団、外国人犯罪組織が入り乱れる映画「JOINT」が、「ニューヨーク・アジアン映画祭(NYAFF)2021」(会期8月6日〜22日)に登場した。同作は、コンペティション部門(UNCAGED AWARD FOR BEST FEATURE FILM COMPETITION)にノミネート。SVAシアターでの上映に加え、オンラインでも配信された秀作だ。

メガホンを握った小島央大(こじま・おうだい)監督は現在、東京を拠点に活動する新進気鋭の若手。ニューヨーク市内に3歳から13歳まで在住した経験を持ち、今回、故郷ともいえる地での上映に参加するため来米。8月13日、SVAシアターへ駆けつけた監督に話を聞いた。(聞き手:ケーシー谷口)

上映前、SVAシアターの客席でインタビューに応じる小島監督。Photo by KC of Yomitime

「JOINT」あらすじ:出所して東京に戻ってきた半グレの石神武司(山本一賢) は、詐欺用の名簿ビジネスを再開、大成功を収める。親友のヤスに投資を勧められ、ベンチャービジネスに介入し、裏社会から足を洗おうとするが、クリーンな世界になかなか馴染むことができないでいた。健全な世界と複雑化した犯罪界に挟まれた石神は、自らの生き方を選択しなければならない。石神はどんな道を歩むのか…。小島監督初となった長編映画。

© 2021 “JOINT” Production Committee, Oudai Kojima


・映像業界に進んだきっかけを教えてください。

東京大学工学部建築学科4年の時に、建築学に対する興味がなくなってしまいました。では何をやろうかと考えていた際に、たまたま映画「バードマン(監督:アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリト)」と、その映画の制作段階をドキュメンタリー風にまとめた「ビハインド・ザ・シーン」を観たのです。映画作りや完成までの過程などに興味を持ち、その多様な面に感化されました。

ちょうどその頃、バンド活動もやっていたのですが、時々、バンドのミュージックビデオ(MV)を作っていました。当時は「監督」という認識はありませんでしたが、今から思えば、知らぬ間に「映像監督」をやっていたのだな、と思います。

卒業後は建築関連の仕事には就かず、フリーランスになりました。好きな映像作家の山田智和さんが、たまたまアシスタントを募集していたことから応募。幸運にも採用していただきました。監督のもとで働き、いろいろ勉強させていただいて1年半ぐらい過ぎた頃、本作「JOINT」に出演してもらった役者さんたちと、居酒屋で飲む機会に恵まれたのです。その際、映画制作の話で盛り上がったことから、話が具体化。今回の「JOINT」へと繋がっていきました。



・MVと異なる映画の魅力とは?

何かを映像で表現するという点では同じですが、映画は「一つの世界を作る」という印象を持っています。また、映画がMVやCMと大きく違う点は、その「長さ」。それ故「記憶に残る」と考えています。いろんな芸術の中でも、映画は鑑賞時間が長いことから、観客がその世界観に入り込める。制作するわれわれの側から言えば、いかにして人々を「映像の世界」に引き込むか…そういう点が魅力ですね。

以前から、「日本で『詐欺』とは、どういったものなのだろうか?」と、疑問を持っていましたが、それを映像化しようとは思っていませんでした。ですが、日本の詐欺についてリサーチをしていた際、その「犯罪構造」が特徴的であることに気付き、とても興味を持つようになったのです。13歳までニューヨークに住んでいたのですが、明らかにアメリカの犯罪構造は、日本のソレとは異なります。様々なことを考えているうちに、「半グレを主人公にしたら面白いのではないか…」と、本作のイメージが膨らんでいきました。

映画祭のバックボード前に立つ小島監督(右)と、パク・イルヨンを演じ、プロデュサーも務めたキム・チャンバさん。Photo © NYAFF

・「脚本を作りながら映画制作を進めた」そうですが…

「構想=物語」の展開は、漠然と持っていましたが、しっかりとした脚本はありませんでした。今回は、「脚本を書き進めること」と「映画制作」が同時進行。好きな映画監督の一人、テレンス・マリックの「聖杯たちの騎士:Knight of Cups」では、明確な脚本が存在せず、役者のキャラクターを加味しながら、アドリブ的な手法で制作しています。「JOINT」は、俳優陣が先に決まっていたので、マリック監督同様、演者の「キャタクター」を重視し、物語に反映させながら進行しました。

脚本のクレジットは、HVMR(ハマー)さんですが、山本一賢(役名:石神武司)さんにも参加していただいています。大まかなストーリーはありましたが、HVMRさんから、「ここは、こんなセリフがいいのではないか」など、アドバイスをいただきました。さらに、撮影時にはアドリブを多用。6~7割ぐらい進んだ時点で、ラッシュ映像やスクリーンショットを観ながら、再度、脚本を手直し。残りの3~4割をどう展開していくかなどを話し合いながらゴールを目指しました。

・個性的な俳優陣ですが、どのように集められたのでしょう?

主要キャストは、最初の居酒屋での話し合いで決まっていましたが、「多方面の人間を描くためには、それなりの人数が必要」ということになり、オーディションで公募、最終的には400人ぐらいを面接しています。他にも、「知り合いに面白そうなのがいる」という案が出て、山本一賢(役名:石神武司)さんの友人にも出演していただきました。いずれにしても、オーソドックスではない方法でしたね(笑)。

チャンバさん(左)は、「監督から演技に対する注文はほとんど無く、任せてくれました。結構ナチュラルに演技させていただきました」とコメント。 © 2021 “JOINT” Production Committee, Oudai Kojima

・出演者の6~7割は「素人」さんや演技を始めたばかりの方だったそうですね。その理由は?

自然な演技には、役者さんの技量が大きく関係するとは思います。ですが、英語教育を受けた僕の印象として、日本語が持つ言葉の微妙なイメージ「語感」の部分は、「演技」では出しづらい、と感じていました。もともと、「脚本に沿った人物を探す」という構想ではなかったので、演技が初めてでも、自然と「役」に入っていけたのではないでしょうか。無理にキャラクターを作らない、それぞれの「個性」をできるだけ出してもらう。演技ではなく「本人」を撮ったことで、逆にリアル感が出せたと思っています。

・拘った部分はどこでしょう。

観る側もある程度、期待している部分があるのではないかと思いますが、その「ツボ」を押さえつつ、新しさも盛り込んでゆく。半グレの実態、現在の犯罪構造、取り巻く人間像など、昔とはその「趣き」が変わってきている。そんな変化した部分の描写を心がけました。

・カメラアングルが個性的で、セリフもそれほど多くない。映画全体の「雰囲気」を重視されているように感じました。

主人公が映っていない場面、または後ろ姿や横顔のシーンでも、内容は伝わります。ダイレクトではない手法で表現する方が、モダンに見える。われわれが目指す表現に、より近づくことができたのではないか、と感じています。

アート写真のようなカメラアングル © 2021 “JOINT” Production Committee, Oudai Kojima

・「JOINT」でもっとも描きたかったこととは?

まずは、「生き方を選ぶ」ということは、どういうことなのか、という点。ちょっとしたズレで、思わぬ方向に行ってしまうこともあります。僕も大学卒業後、どうしたらいいのか定まっていなかった。本作の登場人物も、どうすればいいのか、もがき苦しんでいます。ですが、それぞれの世界でこんな生き方もある。自分自身で見つけ、それを正当化できる。そんな彼らの生き様に、覚悟を決めるという「美学」や「男気」、そして悲哀に満ちた人間模様などを、観て、感じていただければと思います。

・次回作は? 作ってみたいと思うジャンルなど。

次回作の構想はありますし、脚本も書き始めています。コメディーやラブストーリーというジャンルにも挑戦してみたい。ですが個人的には、本作のような裏社会での生き方や、シリアスな物語を描きたいと考えていましたので、次回作も自ずとその方面になってしまうかな(笑) 。

・月並みですが、好きな監督は?

マイケル・マン、マーティン・スコセッシ、他にもたくさんいます。ジャンルとしては、クライムドラマに惹かれます。

・最後に、今後の抱負をお聞かせください。

まずはこの映画を成功させること。そして次の映画ですね(笑) 。

上映後、登壇し質疑応答に参加した小島監督(左)とチャンバさん。Photo © NYAFF


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