2023年8月18日号 Vol.452

完売多数で大盛況!
人間性を追求した2作品
JS「ジャパン・カッツ」を終えて

「トーキョー・メロディー」上映でエリザベス・レナード監督(左写真)と矢野顕子氏 All photos by KC of Yomitime

7月26日から始まったジャパン・ソサエティー(JS)恒例の日本新作映画祭「ジャパン・カッツ」は8月6日、全プログラムを終了。コロナ明け初の劇場のみでの開催だったが、チケットも多くの作品が完売、盛況な上映会となった。

毎年、監督を筆頭に俳優や関係者が来米する本映画祭で、今回は7人が登壇。ここでは、それぞれの「人間性」を切り撮った2作品について紹介したい。


★トーキョー・メロディー
今年3月に亡くなった作曲家・坂本龍一の若き日を追ったドキュメンタリー。

上映前、同作に登場するミュージシャンで、坂本氏の元妻、矢野顕子氏が登場。大きな拍手で迎えられた矢野は、開口一番「ピアノはどこ?」とジョークを飛ばした。「私たちは若かったし、美しかった。映像も素晴らしい。存分に楽しんでください」と挨拶した。

上映後は、エリザベス・レナード監督が登壇。

「坂本氏は忙しい人でしたし、予算もあまりなく、短期間での撮影でした。『こんな風に撮りたい』という希望はあってもプランは立てていなかったので、状況に応じてのぶっつけ本番。坂本氏の自宅で顕子さんに『一緒に連弾してくれませんか?』と尋ねると引き受けてくれました。ダメ元で聞いたので、まさか! と思いましたね。

本作は40年前の作品で16ミリフィルムです。こんな大画面で鑑賞するのは初めてで、音響含め心配していましたが、問題もなくホっとしています。捉え方は様々だと思いますが、『坂本龍一』という人間、ミュージシャンへの理解が少しでも深まればと思っています」

「ターコイズの空の下で」上映で、柳楽優弥氏(左)KENTARO監督 All photos by KC of Yomitime

★ターコイズの空の下で
モンゴルを舞台に、国籍が異なる二人の男性が旅に出るロードムービー。全編を通してセリフが極端に少ないことが印象的な作品だ。

上映前、脚本も手がけたKENTARO監督と、主演の柳楽優弥氏が記者会見に応じた。

監督:モンゴルは田舎へ行くと会話が少ないんですよ。阿吽の呼吸で理解しあってるというか、お互いがそれで分かり合えている。本作では、あえて会話を少なくし、モンゴル人の『文化や習慣』を描いたつもりです。昔の日本にも同様な部分があったように思いますし、似ているところがあります。反面、モンゴルには他の国よりも大きなカルチャーショックを受け、そこが魅力でした

やはり文化や言語が違うため、それぞれの受け止め方は全く異なりますが、全世界で共通することはないだろうか、という気持ちを持ちながら作っていたところもあります。この映画には、アイデンティティーとは何か、自分は何者なのかというメッセージも込めています。ハードルは高いですが、本作はモンゴル人が撮ったかのような映画にしたかった。人との出会いの美しさ、命の尊さを劇中のタケシ(柳楽)とともに感じて欲しい。

ジャパン・カッツが選ぶ、日本映画界に貢献した監督や俳優を称える「CUT ABOVE賞」は、柳楽優弥氏に贈られた。

柳楽:撮影中は、鏡を見ることやマネージャーと話すことも控えるように指示されました。KENTARO監督のオーダーは、他の監督さんと比べると、ちょっと違うなという印象です。私は演出を受けるほうなので、どんな効果をもたらしたのかはわかりませんが、ユニークな監督さんです。

初めは、『モンゴルに行ける!』というぐらいの軽い気持ちだったのですが、現地でロケを進めるうち、自身のアイデンティティーについて考える機会になっていました。私自身、『俳優として何か足りないのでは? 次のレベルに到達するためには?』と考えていた時期でもあり、この映画が前に進むためのきっかけになったと思っています。

主人公のタケシは、経済的に不自由なく育ち、物質的な豊かさは持っていますが、人との出会いにより欠けていた心の豊かさの重要性を知ることとなります。僕も今回、その大切さを再確認しました。同時に、多国籍・多文化の中で仕事ができたことは今後の糧となり、幸せだと感じています。(聞き手:谷口)




HOME