日本独自の風合いと
新しい表現をマッチング
アーティスト 小野原和紀
歌舞伎の背景画家として12年務めた小野原
「小学校の頃はサッカーに夢中で、1年365日の内360日程度は外で遊んでいました」と話すのは、ブルックリンを拠点に活動するアーティストの小野原和紀(おのはら・かずき)。千葉県出身の小野原は、昨年7月に来米。現在、現代美術作家の松山智一が率いる「松山スタジオ」で日々、研鑽を積んでいる。
ギターを始めた兄の影響でドラムを始め、中学時代はバンド活動に熱中していたという小野原。高校入学時に、「アーティスト」に転身する最初のきっかけが訪れる。
「親しくなった帰国子女の友人のお兄さんが、地元駅前にあったアパレルショップの外壁にスプレー缶で絵を描いているのを見て、衝撃を受けました」。その夜からスケッチブックに真似事を描く様になった。
「母親が趣味で絵画を描いていたこともあり、幼少期から『絵を描くこと』は身近にありました。小学生の時、ポスターコンクールなどで入選したことも、絵を好きになっていった理由の一つかもしれません」
ORU, 2023
高校卒業後、さまざまな場所で本格的に絵を学んだのち、日本テレビ放送系列映像制作会社や、富士フイルム株式会社、工務店などに勤務。同時に、フリーランスのアーティストとして、壁画制作やロゴデザインなども手がけていた。そんな社会人7年目の小野原に、2度目の転機が訪れる。
「テレビ番組制作やフォトラボ、工務店など、様々な『モノ作り』の現場を経験してきた20代後半、『やはり絵を描く仕事がしたい』と考えるようになっていたのです。職探しをしたところ、歌舞伎で舞台美術の求人を見つけました」
それまでの経験が買われ、歌舞伎大道具に入門、背景画絵師として12年間、腕を振るった。同時に、文化庁選定技術保存団体にも所属し、個人的に研究・レポートなどを提出。その活動が認められ、最終的には同団体の講師を務めるようになった。
好きな絵を描き、後進を育てる立場になった小野原に、突然、3度目の転機がやってきた。
「当時勤めていた劇場が、コロナの影響で2ヵ月休業したのです。ちょうど40歳を迎える時期でもあり、残りの人生を如何に生きるか、という問題に対して考える時間が持てました。自身の作品をまとめながら、海外でも作品を発表したいと思っていた矢先、NHKの番組「日曜美術館」で松山智一さんが、ニューヨーク、バーワリーの壁画制作に取り組んでいるのを見て、『参加したい!』と強く感じました」
松山の人間性にも惹かれた小野原は、迷わずホームページからメールで連絡。「松山スタジオ」があるニューヨークへ飛ぶことを決意した。
AMU, 2023
「歌舞伎の背景画家」から、「コンテンポラリー・アーティスト」へ転身した小野原。作品の普遍的なテーマとは何か。
「日本独自の風合いを、新しい表現とマッチングさせてゆくことでしょうか。現在は水や光、大気など被造物の『流れ』というテーマに沿って制作を続けています。歌舞伎・背景画との共通点は、鑑賞者が主役となる絵画、空間とマッチする絵画を制作すること。相違点は、やはり作品と鑑賞者の『距離感』が違いますから、緻密性などの仕上げが異なることでしょう」
自らの作品が、美しく納得のいく方向に進んでいる時が一番楽しい、と打ち明ける小野原。その一方で、「制作作業は全く問題ありませんが、体力的な疲労が一番辛いですね」と笑う。
8月1日から始まったグループ展「Devotions」(別記)で小野原は、新作5点を発表する。
「独立を目指して来米したので、今はノウハウを学ぶことに集中しています。ミューラルアートにも挑戦したいですし、ニューヨークだけでなく、ドイツやエチオピアなどでも作品を発表していきたい」
4度目の転機がどのような「形」で小野原に訪れるのか…楽しみである。
7人展「Devotions」
■8月1日(火)〜9日(水)
■オープニングレセプション:8月4日(金)6〜8pm
■会場: Tenri Cultural Institute
43A W. 13th St
■TEL: 212-645-2800
■https://nyc-art.net/devotions
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