2018年7月27日号 Vol.330

ニューヨークの夏を満喫
ユニークな野外アート2選
「ホットドッグ・バス」「フロー・セパレーション」

野外アート
Erwin Wurm, Hot Dog Bus, 2018. Courtesy the artist, K11 Art Foundation Hong Kong, KONIG GALERIE Berlin, and Lehmann Maupin New York and Hong Kong. Photo by Liz Ligon, Courtesy Public Art Fund, NY

野外アート
Tauba Auerbach, Flow Separation, 2018. Courtesy Paula Cooper Gallery. Photo by Nicholas Knight, Courtesy Public Art Fund, NY


右手にブルックリン・ブリッジ、左手に遠く「自由の女神」像を見ながら、ホットドッグをほおばる。これぞニューヨークの夏! ーーというような、何とも平和な気分にさせてくれるのが、ブルックリン・ブリッジ・パークの中に出現したアーヴィン・ヴルム(1954年、オーストリア生まれ)のアート・プロジェクト「ホットドッグ・バス」だ。
目に鮮やかな辛子色、ずんぐり膨らんだその車体は、フォルクスワーゲン社がかつて生産していたマイクロバスを改装したもの。両サイドの窓が開いて、ぴょこんと上がったその姿は、まるで空飛ぶダンボ(子象)のようだ。実際、ヴルムのこれまでの作品には、椅子や机に無理やりセーターを被せ、人型に見せたり、人間の手足を持つソーセージや野菜の彫像を作ったりと、擬人化されたオブジェが多い。
今回の作品では、「食べるアナタ」もヴルムの作品の一部になってしまう。ホットドッグ・バスは、ウィークデイはただ眺めるだけ。が、土日はフードカートの機能を発揮して、正午から6時まで無料のホットドッグを提供してくれる。ランチ時には長い列が出来るらしいが、筆者が立ち寄った夕方時分には、スタッフ自ら呼び込みのごとく道ゆく人に声をかけ、一人一個のホットドッグを振舞っていた。
多くの人は、このシステムに気づかない。街中のカート同様、お金を払って買うものと思っている。が、何となく気づいて戻ってくる人、食べながら行き過ぎてしまう人、ベンチに座って味わう人など、反応はさまざまだ。こうした人間模様の中、あらためてニューヨークの変貌する景観に驚愕する。
思えば、ブルックリン・ブリッジ・パークがこれほど広がっているとは思わなかった。夜景スポットで有名なブルックリンハイツのプロムナードとほぼ平行して、自然をうまく取り入れた川べりの遊歩道、埠頭を利用したスポーツ施設、はたまた賑やかなバーベキュー広場が延々と続いている。
便利なことに、もうひとつ話題のアートが、同じ公園内のピア6で開催中。こちらは、車ならぬボートだ。
ただのボートではない。1931年建造の消防艇である。94年にはリタイアして、空母イントレピッド同様、保存・公開されてきたが、9・11の際に呼び戻され、消火作業ならぬダウンタウンの消火栓用の水の補給に務めたのだという。そのカムバックが話題となり、2010年には普通郵便の切手にもなった。などというエピソードもさることながら、目の前に現れた雄姿は何と、赤と白の艶やかな抽象模様!
手がけたのは、ニューヨーク拠点のアーティスト、タウバ・オーエルバッハ(1981年、サンフランシスコ生まれ)である。彼女は、紙の折り目やシワシワ、布地の柄など、平面を超立体的に描くスーパーリアルな手法で話題となり、具象画のようでもあり、色とパターンの抽象画のようでもあり、そんな独特のジャンルで活躍してきた。船体をキャンバスに見立てた今回の仕事も、マーブル紙の製法を用いたたらし込み的絵の具の流れのよう。と同時に、「フロー・セパレーション(境界層剥離)」というタイトルにもある通り、航行中の船舶の背後に生まれる航跡波を表現しているという。
ところで、こうした抽象模様による船舶の塗装には前例があったのだ。第一次世界大戦中、海上で艦船の位置や進路を見えにくくする、いわば敵方を幻惑・撹乱する意味で生まれた「ダズル迷彩」であり、イギリスの画家の考案だったという。今年は、この第一次世界対戦の終結から100年目。イギリスでも、現代作家の表現による「ダズル」シップがいくつか登場したようだ。
呼び物はやはり、週末に予定されている無料のボートツアーだろう。たっぷり1時間、再開発中のネイビーヤードやウイリアムズバーグのドミノ工場跡地など横目に見ながら、やがて進路を変え、自由の女神に近づくや、放水の実演が始まる。うっすら虹がかかり、西日を背に黒いシルエットで浮かび上がるリバティ嬢の確固たるお姿。感激の一瞬だ。まさにニューヨークの夏が満喫できる、二つの野外アートの実現である。(藤森愛実)

Erwin Wurm: Hot Dog Bus
■8月26日(日)まで
■会場:Brooklyn Bridge Park
 土:Pier 1、日:Pier 5


Tauba Auerbach: Flow Separation
■8月12日(日)まで
 会場:Brooklyn Bridge Park, Pier 6
■8月13日(月)〜9月23日(日)
 会場:Hudson River Park, Pier 25
■9月24日(月)〜2019年5月12日(日)
 会場:Hudson River Park, Pier 66a
※ボートツアーは9月23日まで
 (予約制・無料)


www.publicartfund.org


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