2020年7月24日号 Vol.378

大切なのは「繋がり」
日本人だからこそ見える視点
古川康介

映像作家/フィルムキュレーター
NYJCF主催者



コロナ禍の影響でニューヨークのエンタメ業界は壊滅状態。今年6月、9回目を迎えるはずだった恒例の映画祭「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト(NYJCF)」も例外なく延期された。

「現在、共催するアジアソサエティーと、『年内にオンライン上映』するか、『来年まで延期』するかを調整中です。次回は10周年なのでそれに向け、良い形で進めたいと考えています」と話すのは、同映画祭主催者のひとり、映像作家・フィルムキュレーターの古川康介(ふるかわ・こうすけ)さん。

古川さんがプロデューサーとして参加するNYJCFの短編「アポロジャイザーズ」は昨年、クイーンズワールド映画祭で脚本賞を受賞。2011年に制作した短編「ウグイス」は、マンハッタン国際映画祭で「ベスト短編賞」と「ベスト映像賞」を受賞している。

「現在、『アポロジャイザーズ』の続編を急ピッチで進行中で、来年には撮影に入りたいですね」と意欲を燃やす。


NYJCFの長編企画「アポロジャイザーズ」では プロデューサーとして活躍

東京都出身の古川さん。映画に興味を持ったのは、大学時代だった。「実は建築学科を希望していたのですが、多摩美術大学・映像演劇学科しか合格しなかったんです(汗)。ただ中学の頃、NHKの衛星放送やWOWOWで古い洋画や海外ドラマにハマったほど映像は好きでした」大学で専門的に学ぶようになり「本格的にこの道で生きていこう」と決意した。

大学を卒業後、旅行で「印象が良かった」というニューヨークで学ぼうと来米。2006年にブルックリンカレッジ映画学部を卒業し、そのまま15年以上、ニューヨークを拠点に活動した。「映像最先端の国でインディーズの映画制作が盛んなニューヨーク。技術はもちろんですが、一番重要なのはコミュニケーション能力、やはり『人との繋がり』だと思いました。多くの人たちに出会い助けられたのは、人生の素晴らしい財産です」

ニューヨークで高校の同級生と結婚、2児の父となった。「子どもを持ってから、環境や教育に対して真剣に考えるようになりました。レイチェル・カールトンの本『センス・オブ・ワンダー』を読んだ時、自然からしか学べないことがある、自然と共に子どもを育てたい、と。同時に自然の中で過ごすことでしか湧き上がらない、自分自身の創造性を試したい、と考えるようになりました」

そんな中で、ドイツのプログレッシブな教育や環境意識に共感するようになり、「それを肌で感じてみたい」と思い、今度はベルリン行きを決意。2017年、一家はベルリンに移住した。ベルリンの印象をこう語る。
「都市でありながら、自然と共存するエコでサスティナブルなシステムが、全体に行き届いている素晴らしい街。古いものを大切にしながら、自由な芸術の空気が流れていました」

一方で、「太陽が出ない期間が長い」ことが、永住するには難しいとも感じたという。「実は、ニューヨークを発った後、そのままベルリンにいかずに、息抜きのつもりでハワイ島の友人宅を訪ね、2週間ステイしたのですが、『こんなに素晴らしい場所はない』と感じました。自然が広大で海も山もある。何よりもハワイの日本人カルチャーが衝撃的だった。ニューヨークではマイノリティーとして過ごしてきたのに、ハワイではそれが全く逆。日本の風習を大切にし、盆踊りや餅つきが行われている。古き良き日本がここにあると感じ、ここで子育てするのもいいかもしれないと。ベルリンで学んだら、ハワイに戻ってこようと決めました」2019年、ベルリンを去り、「子どもたちに自身のルーツを教えたい」と、妻の故郷、沖縄と奄美大島に移り住む。その後、現在の拠点となるマウイ島に移住した。


元々、オアフ島で働くつもりだった古川さん、ハワイ州の教育委員会が管轄する映像制作会社『マウイ・ディストリクト・テレビジョン』で職を得たことからマウイ島へ。同社では、マウイ島にあるハワイ州立の小学校から高校までの子どもたちを対象に、教育・学校・学生生活・移民の子どもたち・ハワイ文化の継承などをテーマにしたドキュメンタリーやコンテンツ映像、コマーシャルなどを制作。同州の高校生を対象にした映画祭「808ストーリーテリング」の審査員にも抜擢された。


「以前から教育には興味がありましたが、実際に親になってからは、映像制作の経験を子どもの教育に、未来のために活かしたい、と考えるようになりました。『808ストーリーテリング』では、学生たちのアイデアに驚かされ、キュレーターとしても勉強になっています」いつかニューヨークの「NYJCF」で上映できる作品に出会えるのでは…と期待しているそうだ。ニューヨークでは人との繋がりを、ベルリンでは都会における自然との共存を学び、現在、古川一家はハワイの大自然と共に暮らしている。


ハワイ州DOEのミニドキュメンタリーアスリートシリーズで 新鋭の高校生女子サッカー選手を撮影

様々な場所で多様な環境を体験してきた古川さん。「コロナ禍」という新たな環境を、どう受け止めたのか。「ロックダウン中で一番強く感じたことは、映像が持つ可能性です。今後は、伝える手段として、ますます重要なツールになると確信しています。私自身も制作する立場として、どんどんスキルアップし、『伝えていくべきこと』を責任を持って伝えたい」

キュレーターとして、日米で新しい才能を発掘し、多くの人に作品を紹介していく。また、映像作家として、ハワイのローカルな「人」にフォーカスしたドキュメンタリーを制作し、個人が持つ「ストーリー」を浮かび上がらせていく。それらが「自らの使命」だと話す。

「いずれにしても大切にしているのは『繋がり』です。人と人との繋がり、人と自然との繋がり、現在と祖先との繋がりなど、自分にしか表現できない『繋がり』を映像に織り込んでいきたい」

アメリカで活動する「日本人」だからこそ理解できる側面がある。古川さんは、アメリカ人には見えない視点を「映像」という形で、人々に伝え続けている。

古川さん作品サイト
www.kosukefurukawa.com
vimeo.com/kosukefurukawa


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