2020年7月24日号 Vol.378

独自の歩みに注目集まる
日系人アーティスト
レオ・アミノ


Leo Amino, Winter Scene, 1951. All images: © The Estate of Leo Amino. Courtesy The Estate of Leo Amino and David Zwirner


3月中旬に突入したロックダウンからはや4ヵ月。待ちに待った経済再開が進む中、チェルシーやローワーイーストサイドでは、展覧会をオープンする画廊が多くなっている。といっても、気軽に立ち寄るというわけにはいかない。ほとんどの画廊が30分刻みの予約制を取っていて、事前に名前や連絡先の登録が必要だ。

このシステムは、面倒なようでいて意外と効率がいい。一ヵ所に30分も?と思うだろうが、じっくり見ていると15分や20分はすぐにたってしまう。画廊から画廊への移動時間も含めれば、まずは順当な時間配分といえよう。何より、広々とした真っ白な空間にいられること自体、感激ものだ。

ともあれ、新しい発見といえば、デイヴィッド・ズワーナー画廊で開催中のレオ・アミノの彫刻展だ。優美で不思議な形状の作品が、画廊2階の3室を埋めている。寄木細工を思わせる木工の巧みさやシュールなモチーフに特徴があり、イサム・ノグチやルイーズ・ネヴェルソンの抽象彫刻との関連性が窺われるが、ひときわユニークなのは、色紙を貼り付けたようなガラスの卓上彫刻だ。

いや、ガラスと見えたのは、ポリエステル樹脂で、古い青銅器のような作品も、素材はアセテートだという。いったいアミノとは誰? 初めて聞く名前の作家であり、初めて見るその作品に俄然、興味が湧く。


Leo Amino, Untitled, 1966

アミノは、191 1年、日本統治下の台湾に生まれた日本人だ。東京で育ち、1929年、単身渡米。西海岸の大学を経てニューヨーク大学やアメリカン・アーティスツ・スクールに進み、彫刻家チャイム・グロスのもとで木彫を学んでいる。1939年のニューヨーク万博に登場し、翌年にはニューヨークの画廊で初個展。47年から62年まで、現在のホイットニー・ビエンナーレの前身であった「アニュアル」展にほぼ連続出展を果たし、この間、かの先駆的美術大学ブラックマウンテン・カレッジで教鞭をとっている。晩年は20年以上に渡ってクーパー・ユニオン大学で教え、89年に他界。

こうした生前の活躍をたどれば、おのずともう一人の日系アメリカ人の彫刻家ルース・アサワの近年の再評価と重なってくる。また、シカゴで活躍した画家ミヨコ・イトーも同世代だ。いずれも、これまでの美術史を支配してきた「時代のスタイル」に特定されず、さりとて、ことさら日本的、アジア的な作品というわけでもない。いまこうした作家たちの独自の歩みに大きな注目が集まっている。

アミノは、40年代後半から合成樹脂、すなわちプラスチックを彫刻素材に取り入れ、51年の「冬の光景」に見られるように、当初は、木の彫刻と組み合わせたトーテム風の作品を試みている。壁にかかる絵画的な作品もあり、樹脂の板にエンドウ豆やカタツムリのごとき木のオブジェが埋め込まれ、表面にワイアメッシュがコラージュされた52年の「コンポジション25番」など、摩訶不思議な小宇宙を紡いでいる。


Leo Amino, Refractional #85, 1972

やがて、樹脂の内部に色が溶け込んだような立体制作に転じ、66年の「アンタイトルド」では、その鮮やかな色が内部で揺らめき、見る角度によって別の形や立体感を生み出す。こうした色と光とボリュームとの相互作用を最大限に追求したのが、65年に始まる「屈折(リフラクショナル)」シリーズだろう。四角いガラス鉢のようなその立体は、密なのか、空洞なのか。色が溶けているのか、色つきプレートの重なりなのか。不規則な切り込みのある立体の構成自体も、光の反射や透明性に作用しているのだろう。

見れば見るほど多くのことが知りたくなるアミノの作品だが、いかなる偶然か、ペース画廊で開催中のケネス・ノーランド展にもちょっとした発見があった。ノーランドといえば、60年代のカラーフィールド・ペインティングの代表選手。標的のモチーフで有名だが、90年代に制作された細長い帯状のシェイプト・カンバスのシリーズでは、色の帯を仕切る形でプレキシガラスが使われている。透明だったり、色つきだったり、ガラスの面と線が、作品に彫刻的な動きを与えている。

知らない作品はたくさんある。知らなかった作家も多い。画廊街を廻っていれば、そうした発見の中に意外な繋がりが見えてくる。なるほど、30分はあっという間だ。(藤森愛実)

Leo Amino:
The Visible and the Invisible
■7月31日(金)まで
■会場:David Zwirner
 537 West 20th St.
www.davidzwirner.com

Noland: Flares
■8月14日(金)まで
■会場:Pace Gallery
 540 West 25th St.
www.pacegallery.com


HOME