2021年7月23日号 Vol.402

ニューヨーカーの心意気、野外アートで総勢24人
「再発展:アートとリバーサイド・パーク、
そしてニューヨーク・スピリット」

① Joshua Goode, Ancient Rhoman Votive Stature, 2021 @ 148th St. waterfront. Photo by Manami Fujimori

アップタウンのハドソン川沿いに広がるリバーサイド・パークでは、今夏、総勢24人の作家による野外アート展が開かれている。古代遺跡を思わせる素朴な石像=写真①=や色とりどりのバナー、AR画像を取り入れたデジタルアートなど、実に多彩な作品が、ゆったりとした川面を背景に、あるいは鬱蒼とした樹木の中に点在している。

公園は、驚くほど広く、南は59丁目から北は158丁目まで、全長ほぼ100ブロックに及んでいる。また、公園本体がある高台と川べりの低地部分は、断崖ほどの高低差があり、歩道橋やトンネルで結ばれている。こうした上下構造や石造りのプロムナードなど、ふとセントラルパークを思い出させるが、調べてみると、この2つのパークの設計には造園建築家フレデリック・ロー・オルムステッドが関わり、どちらも同じ頃、1870年代半ばに完成したものだった。



20世紀前半には、川べりと並行して走る高速道路の建設が始まり、その後の再開発によって、もともと72丁目から125丁目までだったリバーサイド・パークはさらなる拡張を遂げていく。近年では、ブルックリンブリッジ・パークやロングアイランドシティのハンターズポイント・サウス・パークなど、ウォーターフロント再開発による瀟洒な川沿いの公園は珍しくなくなったが、このリバーサイド・パークは、その草分けということなのだろう。

② Sui Park, Summer Vibe, 2021 @ 78th St. upper level. Photo by Manami Fujimori

そのためか、多少古びた、いや鄙びた感じがあることも事実で、展示の作品自体、潤沢な予算を組んだ大型アートの出現とは言い難い。が、だからこそ、自然と溶け合った、ある種身近なアート展ともなっている。なかでも目を惹くのは、花壇の中にふと現れるカラフルなサボテンの一群だ。棘の部分がフワフワと海洋生物のようにも見えるその作品は、市販の結束バンドを繋ぎ合わせたスイ・パクの「サマー・バイブ」=写真②=である。

大きな岩盤に苔のように蔓延る緑のベールは、古着や廃品の再利用アートで知られるジャン・シンの新作インスタレーション「繁茂するもの」=写真③=だ。素材はなんとペットボトルの底の部分を繋げただけだが、いま問題となっているプラスチック汚染の警告だろうか。あるいは逆に、都会に進出し、根を下ろそうとする者たちのポジティブなエネルギーとも取れるようだ。

③ Jean Shin, Invasives, 2001. @ 75th St. upper level. Photo courtesy BravinLee

エネルギーといえば、リバーサイド・パークに象徴される川の流れや人の流れ、社会の流れといったさまざまなエネルギーの集合体をカラフルな曲線に表現したウェンディ・レトヴィンの彫刻「4つの流れ」=表紙写真=も印象深い。華奢なアルミ板は、陽の光や樹木の動き、風の音に共鳴しつつ、しかもなお自然と拮抗している。

本展は、チェルシーの画廊「ブラヴィン・リー」の共同経営者の一人、カリン・ブラヴィンの企画により実現されたものだ。彼女自身、リバーサイド・パークの近くに住み、この1年の制限ある生活の中でしばしば公園を訪れ、パブリックアートの意義を問い直したのだという。タイトルの「再発展: アートとリバーサイド・パーク、そしてニューヨーク・スピリット」には、常にポジティブに再生を試みるニューヨーカーの心意気が詰まっている。(藤森愛実)

Re: Growth A Celebration of Art, Riverside Park, and the New York Spirit
■9月13日(月)まで
■場所:Riverside Park
 ハドソン川沿い59丁目から158丁目
https://bit.ly/3hLkDiA


HOME