2020年7月10日号 Vol.377

年内の公演中止
ライブステージ受難の時
ブロードウェイ情報


「ビートルジュース」は2019年春に開幕。集客も順調だった Alex Brightman (Photo: Matthew Murphy, 2019)


3月12日から全劇場を閉鎖していたブロードウェイは、来年まで公演中止を継続することが決まった。当初、閉鎖は4月半ばまでの予定だったが、パンデミックの深刻化に伴い、再開を2度延期。6月末、来年1月3日の公演分までチケットの交換と返金を行うことを業界団体ブロードウェイ・リーグが発表した。トーマス・シューマッカー理事長は「キャスト、スタッフ、ミュージシャン、そして観客の安全が最優先」と述べ、検査や消毒、劇場内の動線など様々な側面について、労働組合や各分野の専門家、州・市当局と検討中とした。

残念ながら、1月4日から全公演が再開されるのではない。2021年初旬以降、作品ごとの判断で各々公演を再開して行くという。現時点で開幕日を発表しているのは新作のみで、最も早いのは演劇の「ザ・ミニッツ」だが、プレビュー開始3月1日、開幕は3月15日とかなり先だ。舞台として既に完成しているロングラン作品がいつから再開されるか注目である。


The High Line, Chelsea, Manhattan. Photo by Will Steacy/ NYC & Company

3月に公演中止が決まった時、ブロードウェイではミュージカルと演劇合わせて31本の公演が行われていた。当時プレビュー中だった「ハングマン」と「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」は、経済的な見通しが立たないことを理由に開幕せずに幕を下ろした。「兵士の物語」、「インヘリタンス」、「ビートルジュース」の3本は閉鎖中に閉幕日が過ぎて行った。5月には、ディズニーのミュージカル「アナと雪の女王」も閉幕することを発表。櫛の歯が欠けるように作品が消えて行った。

今春オープン予定だった作品も早々に来年の春か秋への延期を決めた。加えて、来シーズンの超話題作ヒュー・ジャックマン主演の「ミュージック・マン」、マイケル・ジャクソンのジュークボックス・ミュージカル「MJ」も来春まで延期となっている。


The High Line, Chelsea, Manhattan. Photo by Will Steacy/ NYC & Company


The High Line, Chelsea, Manhattan. Photo by Will Steacy/ NYC & Company

ブロードウェイに先んじて、リンカーン・センターやカーネギー・ホールも年内の公演を断念し、ロンドンでも「ハミルトン」、「オペラ座の怪人」などは来年まで再開しないことを発表。シルク・ド・ソレイユに至っては、資金繰りに行き詰まり、事業再生手続きに入ることを発表している。

ライブ・エンターテイメントは、客席からロビー、舞台、オーケストラピット、楽屋を含むバックステージまで、いわゆる「3蜜」が揃っている。中でも、ブロードウェイの劇場は古い建物が多く、隣の人と袖が触れ合うほどぎっしりと座席が詰め込まれ、楽屋も驚くほど狭い。ブロードウェイの観客は高齢者の割合も高く、国内外からの観光客が65パーセントにも上る。パンデミックが一段落したとしても、経済不況が長引くことも予想され、高齢者の常連客や観光客がどこまで戻って来るかは未知数だ。

一方、日本では、多くの劇場が7月から公演を再開している。使用客席数を50%以下に限定し、有料ライブ配信で売り上げの埋め合わせを行っている劇場も目を引く。歌舞伎座では通常の2部制から4部制に増やし、出演者もスタッフも全て入れ替わる。客席数は40%ほどに抑え、「大向こうや掛け声はお断りさせていただきます」とチラシに明記されている。

一つだけ嬉しいニュースがある。7月3日から「ハミルトン」の世界同時オンライン配信がディズニー・プラスで始まる。それも、オリジナル・キャストの舞台映像だ。この傑作ミュージカルは、「Black Lives Matter」運動が全米で継続している中、白人のアメリカ建国の父たちを黒人やラティーノらマイノリティの俳優が演じている点でも先見の明に満ちていた。来年の春になろうとも、必ず再び幕が上がるブロードウェイへの希望を後押ししてくれると信じたい。(高橋友紀子)


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