3年振りの本格開催、第75回トニー賞発表：ニューヨーク最新イベント情報【よみタイム】#Yomitime

2022年6月24日号 Vol.424
3年振りの本格開催演劇の再生と多様性を祝福第75回トニー賞発表トニー賞授賞式、４時間があっという間、すごい盛り上がりでした！（筆者撮影） 6月12日、アメリカ演劇界最高の栄誉とされるトニー賞の授賞式が行われた。昨年秋に短縮版は行われたが、従来通りの開催は実に3年振り。その記念すべきトニー賞授賞式に行って来た。約6千人収容のラジオシティ・ミュージックホールは、4時間以上の長丁場にもかかわらず、終始熱気に包まれ、ブロードウェイの再生を喜ぶ祝祭ムードに溢れていた。2年半に及ぶパンデミック、BLM運動などがもたらした多様性の尊重、公演を陰で支える代役やコロナ対策スタッフへの謝意も繰り返し述べられた。司会のアリアナ・デボーズの溌剌とした魅力と相まって、一体感ある授賞式だった。今回のトニー賞は、2020年2月20日から2022年5月4日までに開幕した34作品が対象。演劇作品賞受賞の「リーマン・トリロジー」、演劇リバイバル作品賞の「テイク・ミー・アウト」のように既に閉幕したものも多いが、現在も上演中のミュージカルを中心に受賞作を紹介しよう。「ストレンジ・ループ」。主演のジャクウェル・スパイヴィー（23）も主演男優賞にノミネート。Photo by Marc J. Franklin ミュージカル作品賞「ストレンジ・ループ」ミュージカル作家を目指すゲイで太めの黒人男性が、「ミュージカル作家を目指すゲイで太めの黒人男性がミュージカルを作る」という奇抜な物語のミュージカルが2部門を受賞した。「ライオン・キング」の劇場でアッシャー(場内係)として日銭を稼ぐ主人公はミュージカルを執筆中。が、常に「Thought」と呼ばれるアンサンブルが彼に「心の声」を語りかけて来る。「奴隷制や警察による暴力など黒人らしい題材を取り上げろ」、「先祖を裏切るな」…。信心深い母親は「ゴスペル劇はまだか」と急かし、飲んだくれの父親は、息子の同性愛は一過性のものと信じて疑わない。内面の声を擬人化するというユニークな構成に加え、人種や性的志向によるステレオタイプを声高に批判する野心作。過激なシーンもあり、地方の保守的な観客には到底受け入れられないと言われて来た。商業的な成功よりも先鋭的なテーマ性を持つ黒人作家の作品が評価されたことは、今年のトニー賞の姿勢を最も良く体現していると言える。脚本賞を受賞したマイケル・R・ジャクソンは、本作に20年近くを費やしたという。「決して妥協せず、ベストを尽くせ」と受賞スピーチを締めくくった。「カンパニー」のマリアン・エリオットは、女性演出家で唯一トニー賞を3度受賞。Photo by Matthew Murphy ミュージカル・リバイバル作品賞「カンパニー」昨年死去したミュージカル界のレジェンド、スティーヴン・ソンドハイムの1970年初演作のリバイバル。独身男性ボビーの35歳の誕生日を前に、既婚の友人夫妻たちは「なぜ結婚しないのか」と迫る。結婚生活の悲喜こもごもを目撃したボビーの結論は…。と、現代の感覚では時代錯誤的なストーリーなのだが、このリバイバルは男女を置き換え、ボビーを独身女性とした。この斬新な発想は演出家賞を受賞した俊才マリアン・エリオットによるもので、都会的でウィットに富み、演劇の喜びを感じる舞台に仕上がっている。名曲揃いであることも付け加えたい。舞台美術、俳優部門も含め5部門受賞。ソンドハイムがかかわった最後の作品となった。「MJ」のアフターパーティで(左から)演出家賞受賞のクリストファー・ウィールドン、脚本賞ノミネートのリン・ノッテージ、主演のマイルズ・フロスト（筆者撮影） 4部門を受賞した「MJ」の主人公マイルズ・フロスト(22)は、ミュージカル主演男優賞の最年少受賞記録を塗り替えた。受賞スピーチでは、「黒人のキッズのみんな、君にも出来る」とエールを贈った。記録といえば、「シックス」で楽曲賞を受賞した作詞作曲コンビの一人トビー・マーロウは、ノンバイナリーのクリエイターとして初の受賞に輝いた。しかしながら、数字を見ると、2021〜22年シーズンがいかに苦難の年であったかが分かる。観客動員数は670万人、総売上高は8億4500万ドルで、いずれも2018〜19年シーズンの50%にも届いていない。シアターは、パンデミックで最初に閉鎖され、最後まで再開できなかった。比較的チケットを取りやすい公演も多い。夏休み、トニー賞受賞作にぜひ足を運んで欲しい。(高橋友紀子) A Strange Loop ■会場：Lyceum Theatre 　149 W. 45th St. ■$43〜　 ■上演：1時間40分 ■strangeloopmusical.com Company ■会場：Bernard B. Jacobs Theatre 　242 W. 45th St. ■$43〜　 ■上演：2時間25分 ■companymusical.com MJ ■会場：Neil Simon Theatre 　250 W. 52nd St. ■$35〜　 ■上演：２時間30分 ■mjthemusical.com Six ■会場：Brooks Atkinson Theatre 　256 W. 47th St. ■$30〜　 ■上演：１時間20分 ■sixonbroadway.com Tweet HOME

2022年6月24日号 Vol.424

3年振りの本格開催
演劇の再生と多様性を祝福
第75回トニー賞発表

トニー賞授賞式、４時間があっという間、すごい盛り上がりでした！（筆者撮影）

6月12日、アメリカ演劇界最高の栄誉とされるトニー賞の授賞式が行われた。昨年秋に短縮版は行われたが、従来通りの開催は実に3年振り。その記念すべきトニー賞授賞式に行って来た。

約6千人収容のラジオシティ・ミュージックホールは、4時間以上の長丁場にもかかわらず、終始熱気に包まれ、ブロードウェイの再生を喜ぶ祝祭ムードに溢れていた。2年半に及ぶパンデミック、BLM運動などがもたらした多様性の尊重、公演を陰で支える代役やコロナ対策スタッフへの謝意も繰り返し述べられた。司会のアリアナ・デボーズの溌剌とした魅力と相まって、一体感ある授賞式だった。

今回のトニー賞は、2020年2月20日から2022年5月4日までに開幕した34作品が対象。演劇作品賞受賞の「リーマン・トリロジー」、演劇リバイバル作品賞の「テイク・ミー・アウト」のように既に閉幕したものも多いが、現在も上演中のミュージカルを中心に受賞作を紹介しよう。

「ストレンジ・ループ」。主演のジャクウェル・スパイヴィー（23）も主演男優賞にノミネート。Photo by Marc J. Franklin

ミュージカル作品賞
「ストレンジ・ループ」

ミュージカル作家を目指すゲイで太めの黒人男性が、「ミュージカル作家を目指すゲイで太めの黒人男性がミュージカルを作る」という奇抜な物語のミュージカルが2部門を受賞した。

「ライオン・キング」の劇場でアッシャー(場内係)として日銭を稼ぐ主人公はミュージカルを執筆中。が、常に「Thought」と呼ばれるアンサンブルが彼に「心の声」を語りかけて来る。「奴隷制や警察による暴力など黒人らしい題材を取り上げろ」、「先祖を裏切るな」…。信心深い母親は「ゴスペル劇はまだか」と急かし、飲んだくれの父親は、息子の同性愛は一過性のものと信じて疑わない。

内面の声を擬人化するというユニークな構成に加え、人種や性的志向によるステレオタイプを声高に批判する野心作。過激なシーンもあり、地方の保守的な観客には到底受け入れられないと言われて来た。商業的な成功よりも先鋭的なテーマ性を持つ黒人作家の作品が評価されたことは、今年のトニー賞の姿勢を最も良く体現していると言える。

脚本賞を受賞したマイケル・R・ジャクソンは、本作に20年近くを費やしたという。「決して妥協せず、ベストを尽くせ」と受賞スピーチを締めくくった。

「カンパニー」のマリアン・エリオットは、女性演出家で唯一トニー賞を3度受賞。Photo by Matthew Murphy

ミュージカル・リバイバル作品賞
「カンパニー」

昨年死去したミュージカル界のレジェンド、スティーヴン・ソンドハイムの1970年初演作のリバイバル。

独身男性ボビーの35歳の誕生日を前に、既婚の友人夫妻たちは「なぜ結婚しないのか」と迫る。結婚生活の悲喜こもごもを目撃したボビーの結論は…。

と、現代の感覚では時代錯誤的なストーリーなのだが、このリバイバルは男女を置き換え、ボビーを独身女性とした。この斬新な発想は演出家賞を受賞した俊才マリアン・エリオットによるもので、都会的でウィットに富み、演劇の喜びを感じる舞台に仕上がっている。名曲揃いであることも付け加えたい。

舞台美術、俳優部門も含め5部門受賞。ソンドハイムがかかわった最後の作品となった。

「MJ」のアフターパーティで(左から)演出家賞受賞のクリストファー・ウィールドン、脚本賞ノミネートのリン・ノッテージ、主演のマイルズ・フロスト（筆者撮影）

4部門を受賞した「MJ」の主人公マイルズ・フロスト(22)は、ミュージカル主演男優賞の最年少受賞記録を塗り替えた。受賞スピーチでは、「黒人のキッズのみんな、君にも出来る」とエールを贈った。

記録といえば、「シックス」で楽曲賞を受賞した作詞作曲コンビの一人トビー・マーロウは、ノンバイナリーのクリエイターとして初の受賞に輝いた。

しかしながら、数字を見ると、2021〜22年シーズンがいかに苦難の年であったかが分かる。観客動員数は670万人、総売上高は8億4500万ドルで、いずれも2018〜19年シーズンの50%にも届いていない。

シアターは、パンデミックで最初に閉鎖され、最後まで再開できなかった。比較的チケットを取りやすい公演も多い。夏休み、トニー賞受賞作にぜひ足を運んで欲しい。(高橋友紀子)

A Strange Loop
■会場：Lyceum Theatre
　149 W. 45th St.
■$43〜　
■上演：1時間40分
■strangeloopmusical.com

Company
■会場：Bernard B. Jacobs Theatre
　242 W. 45th St.
■$43〜　
■上演：2時間25分
■companymusical.com

MJ
■会場：Neil Simon Theatre
　250 W. 52nd St.
■$35〜　
■上演：２時間30分
■mjthemusical.com

Six
■会場：Brooks Atkinson Theatre
　256 W. 47th St.
■$30〜　
■上演：１時間20分
■sixonbroadway.com

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