2018年5月25日号 Vol.326

間もなく来米30周年
明るい求道者
空手家 岩田洋明

2ショト
時間があればシャロンさんと長い散歩

稽古風景
岩田道場の仲間たち


コネチカット州で行われた大山空手本部主催「Ultimate Challenge」大会に出場(1992年11月)


今回はわが敬愛する武人を紹介しよう。岩田洋明(いわた・ひろあき)さんだ。
マンハッタンのチェルシー地区で「空手道 岩田道場」の看板ををかかげる空手家である。
素手をもって殴りあい蹴りあう空手というものに対して長い間あまりひかれなかったのだが岩田さんに出会って少しずつその考えが変わった。
何よりも道を究めようとするその真摯な姿勢と、求道者にありがちな暗さが微塵もない。馬鹿デカイ男たちの多いニューヨークで第一線を守り抜くことが容易でないことは誰の目にも明らかだ。加えて岩田さんは、微力ながら剣術の普及に努める筆者同様、小柄な体格の持ち主で、まして武器無しの裸一貫の空手だけに、これまでに他人の2倍も3倍も自らをいじめぬいて来たに違いないことは想像に易い。それも人知れずに。
岩田道場自体は、そもそも2004年に、極真空手の系譜に連なる斯界ではつとに有名な「US大山空手・大山茂最高師範(後に総主)」の支部として開かれたのだが、08年、岩田さんが独立して「空手道岩田道場」となったものだ。その経歴でわかるように、空手道岩田道場は、極真空手(大山倍達)に根ざしたフルコンタクト・スタイルの空手であり、いわゆる『寸止め』のポイントシステムは採っていない。

来米したのは、19 88年のこと。高校卒業直後の6月にはNYの土を踏んでいた。「NYで何をしようと具体的な目標があったわけじゃないんです。渡米の理由はアメリカへの憧れだけでしたね」。空手を始めたのは高校2年生。17歳で地元京都の極真会館に入門した。小学校の頃から、ケンカっぱやい方だったことには違いないが、高校生になると相手をみて虚勢を張っている自分に気がつくようになる。要するに、勝てそうにもない相手とみるや、ケンカを売ることも買うこともない自分をみたのである。「まあ、自信がなかったのでしょうね。そんな自分が恥ずかしくて、惨めで、情けなくて」。空手の道への動機は、そんな自分から脱したいという、『心の強さ』への渇望だったのだろう。
NYに来るとすぐに元極真空手のスターでもあった大山茂師範の門を叩く。一心不乱に稽古に励む姿を大山師範に認められ、半年後には『内弟子にどうか?』と打診されるほど頭角を現す。「すでにアパートを借りてしまっていたので(笑)、『通いの内弟子』という変則的な身分で許していただきました」。パーソンズの学生として写真の勉強を始め、同時に空手の道にのめり込んでいく。「US大山空手では、あらためて白帯から鍛えなおしていただいたのですが、幸い、1年半後には黒帯(初段)を印可されました」
「2年ほど前に亡くなられた大山総主には、目をかけられ大変可愛がっていただきましたが、その反面、『岩田、お前は生意気だ!』といつも怒られてましたね。ただ、支部長になってから、自分の組手を見ていた総主から『岩田!お前空手に開眼したな!』という最上級の賛辞を2度頂きました。最後には認めていただけたようです」と亡き師への思い出は尽きない。
岩田道場も現在活躍中のクリスさんをはじめ多くの名選手を輩出。有望選手が評判を聞きつけて他州、海外からも出稽古を申し込んでくるほどに知名度をあげている。「出稽古に来られた人には自分自身でも組手の相手をします。正直、現役の選手と組手(実戦稽古)をするのはシンドイですが(笑)自分の体で伝えていきたいものがあります。組手をやれば相手の技量も性格もわかります。自分にとってのコミュニケーションです」
岩田さん自身は、「選手生活は92年が最後でした。食べるために、昼と夜、仕事をふたつ掛け持ちしていましたので大会で活躍するほどには稽古量を維持できなくなったからです」
現在、49歳。「自分で思うのですが組手の実力でのピークは40歳はじめくらいだったと思います。ちょうど心身共に充実期にありました」
空手を始めて、街を歩いていても怖いと思うことがなくなったという。「なんといっても年がら年中、殴りあっていますからね。殴られることに慣れちゃってる(笑)」
週末には時間があると、一緒になって6年になるシャロンさんとウオーキングを楽しむ。岩田さんは、商業化された多くのアメリカの空手界の現状を否定はしない。空手の普及に貢献しているという面もあるからだ。一方で、岩田さん自身は生徒集めのために稽古内容を妥協することはない。空手への熱い情熱がすべてだ。生徒たちは互いにリスペクトし合い、岩田さんもすべての生徒を家族として見ている。小生が敬愛する点がそこにある。(塩田眞実)

■空手道・岩田道場
www.iwatadojo.com
■FB:Hiro Iwata



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