2020年5月8日号 Vol.373

安西先生に聞きました!

安西弦先生が執筆した一般向け解説を短く編集したものです。全文は米国日本人医師会(JMSA)のウェブサイト(下記)で。
https://www.jmsa.org/ja/2020/05/01

Q:コロナウイルスの検査について教えてください。

A:これまで多く行われてきたのは、鼻から綿棒を入れて奥の液体を採取し、ウイルスの有無を調べる「PCR検査」です。仮にウイルスが喉のずっと奥の方に存在し、そこに綿棒が届かなければ採取できず、陰性となります。このため、PCRのsensitivity(感度)は60〜70%と言われ、つまり30〜40%は見逃されます。さらに、感染して治癒した後ではウイルスは検出されません。
これに対して、4月20日からニューヨーク州で始まったのは「抗体検査」です。ウイルス感染後に体内で作られるタンパク質(抗体)の有無を調べるものです。抗体があるということは、感染したことがあることを示すと共に、新型コロナウイルスに対して免疫がある可能性を示唆します。
感染したことがある人を特定できるということは、感染の広がりをより正確に把握でき、ウイルスの致死率の計算ももっと正確に行うことができます。COVID-19については、抗体がある=免疫があるとの確証はないのですが、動物実験、同種のウイルスに対する抗体のデータから、何らかの免疫を獲得できる可能性が極めて高いと考えられています。韓国、日本で、感染後一度ウイルスが陰性になった人が再感染したという報告がありましたが、これについて専門家は、PCR検査での偽陰性だったものと考えているようです。
クオモ知事は、最初の抗体検査の結果として、14%近くの人が陽性だったと発表しました(4月23日時点)。この数字は検査が進むにつれて変わっていくものですが、推測よりも随分高い数字で、ウイルスが予想以上に蔓延していたことを表しています。一番感染者が多かったニューヨーク市でさえ、現在診断が確定した人は2%弱。軽症者は検査をしていないので、実際に感染した人は恐らくその数倍ですが、14%はそれをも上回る数字です。ワシントン大学のモデルでは、今回の第一波収束時に、米国内の感染率は3%程度と推定していました。97%が感染していないということは、第2、第3の波が来ることはほぼ間違いないと考えられますが、もし感染した人がもっと多ければ、次の波は今回ほどひどいものにはならないかもしれません。
検査の解釈に注意が必要な部分もあり、詳細はJMSAのウェブサイトでご覧ください。


4月30日のクオモNY州知事による定例記者会見から。4月27日時点で人口の14.9%がCOVID-19抗体を保有していると発表された。

Q:治療における人工呼吸器の役割について教えてください。

A:ニューヨーク州で自宅待機命令が出た当初、クオモ知事が毎日のように記者会見で「Ventilator(人工呼吸器)」の必要性を訴えていました。
肺は血液に酸素を供給し、二酸化炭素を除去するガス交換の役目を担っています。これは、肺の末端の小さな袋である肺胞で行われますが、新型コロナウイルスの感染によって肺胞に炎症が起きると、ガス交換がうまくいかなくなります。重症になると呼吸不全に陥り、全身に低酸素状態を起こし、多くの臓器に障害が起こります。この場合、容態が急速に悪化することがあるので、気管内にチューブを挿入し、人工呼吸器で呼吸管理を行い、高い圧力で高濃度の酸素を送り込む必要があります。
通常の肺炎の場合、人工呼吸器を装着しながら抗生物質等で感染を治療し、炎症が収まったところで、人工呼吸器から離脱します。ところがCOVID-19の場合、まだ有効な治療方法がないので、人工呼吸器でライフサポートをしながら、炎症が自然に良くなるのを待つしかありません。他臓器の損傷を引き起こすことも多く、残念ながら中国、アメリカのデータでは80%以上の患者さんが亡くなっています。COVID-19の治療に人工呼吸器は不可欠ですが、それだけでは十分ではなく、どうしても感染自体を治療する方法が必要になります。

Q:マスクの着用は感染予防に有効ですか?

A:当初は、マスクは感染している人が他人にうつさないように着用するもので、健康な人が感染予防のために着用する意味はないと言われてきました。感染者が咳をした時に、飛沫が飛ばないようにする効果はあっても、空気中に浮いているウイルスはマスクの目よりもずっと小さいからです。これは実験的にも裏付けられていますし、事実だと思います。
ただ、あまりにも感染者が増え、50%の感染者は無症状だったとの報告もあるので、とにかく一人一人が感染しているつもりで行動した方が良いということになり、それには全員がマスクをすれば感染のリスクも減るということでしょう。新型コロナウイルスの大流行の中でマスクを着用するのは、社会の一員としての責任だと思います。自分のためではなく、周囲の人たちを守るために、着用しましょう。

Q:人間とペット間で感染しますか?

A:ブロンクス動物園のトラやライオンが、新型コロナウイルスに感染していると報道されたのが4月初旬。その後、飼い猫にも感染が見つかったとの報告もあり、4月末には初の犬(パグ)の感染も報告され、不安をお持ちのペットの飼い主も多いと思います。
新型コロナウイルスによく似たSARSは、コウモリからジャコウネコ(といっても猫ではないそうです)を介して人間に感染したという話だそうで、この動物は食材だそうなので、ペットとは違います。
4月8日のScience という有名な科学雑誌に中国で行われた実験結果が報告されていました。それによると、新型コロナウイルスの感染をイタチと猫に起こすことは可能で、犬には感染しにくく、鶏・豚・アヒルには感染が認められなかったそうです。さらに、感染のある猫の入ったケージの隣に別の猫を入れたケージを置いたところ、ウイルスが感染したことから、猫の間では空気感染が起きたことも確認されています。
こう書くと結構怖そうですが、CDC(米疾病管理予防センター)は、ペットから人間に感染したと考えられる例はないので、リスクは極めて低いとしています。
ただし、ソーシャルディスタンスをペットにも適用するよう奨励しています。犬なら、家族以外の人間、あるいは他の犬とは接触させないように。ドッグランは避けるべきだと書いてあります。猫は、家から外に出さず、家族以外の人には近づけないようにするべきだとも。飼い主はもちろん、ペットを守るためにも、こうした予防対策を徹底しましょう。


NYの大学病院
コロナウイルス治療現場から
柳澤貴裕 医師
マウントサイナイ内分泌内科教授
米国日本人医師会(JMSA)会長


4月のウェビナー(関連記事)を見ていただいた読者の方も多いと思います。医師会として、少しでも役に立てたなら幸甚です。私はウェビナーに参加できなかったのですが、実は勤務する病院で3月下旬から2週間、緊急構成されたコロナ対策チームに配属されていました。
ソーシャルディスタンスの努力の甲斐あって、今はなんとか入院患者数が減っていますが、私が配属された当時は恐ろしい勢いで増えていました。コロナ病棟では3人1組の医療チームが、40チームで対応しました。
私は内分泌内科が専門なのですが、糖尿病のコロナ感染患者は重症化リスクが高く、またステロイド薬も多く使うため、現場で貢献できました。様々な専門医が12時間シフトで、医療現場で連携しながら働きました。
完全にロックダウンされた病院内では全員手術着、マスクにフェイスシールドに手袋にと、完全防備です。シフトが終わって帰宅するにも、ウイルスを自宅に持ち込まないよう、着替えはもちろん、まずはシャワーを浴びてからと、皆気を使っていました。家族を守るために、ホテル住まいをする医師・看護師もたくさんいました。
今回のコロナ病棟配属で、コロナ感染が肺炎だけにとどまらず、心臓、肝臓、腎臓と、あらゆる臓器に影響を及ぼし、体中に血栓を起こすことも目の当たりにしました。在米日本人の皆様におかれましては、自宅待機で不安もあると思いますが、自分と、自分の周りの大切な命を救うために行政の指示に従い安全にお過ごしください。

米国日本人医師会(JMSA)HPコロナウイルスのページ
www.jmsa.org/category/covid-19



コロナ病棟での治療チームと。「みんな明るく振る舞っていますが、壁の向こうは別世界です」と柳澤先生(右端)


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