2023年04月28日号 Vol.444

社会的弱者をテーマに
「必要なものは人との繋がり」
早川千絵 監督「PLAN 75」

上映館「IFCセンター」の前で

第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でカメラドール(新人監督賞)で特別表彰され、第46回日本アカデミー賞では脚本賞を受賞した「PLAN 75(プラン75)」。早川千絵(はやかわ・ちえ)監督=写真=が脚本も手がけた初の長編映画だ。

75歳以上の高齢者を対象に、自ら「生き続けるか死ぬか」を選択できる制度「PLAN 75」が国会で可決・施行された近未来の日本。対象となった老人、対応する市役所の職員、スタッフたちの苦悩を描いた話題作だ。


4月21日(金)からビレッジのシネマ「IFCセンター」で上映を開始した本作、早川監督が来米し登壇。上映に先駆けて行われた日本クラブでの講演会「映画『PLAN 75』が問う生き方の選択〜」にも大勢が来場するなど、「高齢化問題」「安楽死」などに多くの関心が集まっている。

上映館「IFCセンター」に来場、登壇した早川監督

私の周囲にも『高齢化問題』はありましたが、それらの人達にフォーカスして映画を作ろうと思ったわけではありません。高齢者を含めた『社会的弱者』に対する風当たりが強くなってきた現代社会で、障碍者や生活保護受給者に対し、『生産性のない人間に、生きる価値は無い』と考える人々が増えている風潮と現実。そんな現状に憤りと危機感を感じ、この映画を作ろうと思いました」と話す早川監督。本作には、フィリピン人の介護士が登場する。

「まず、介護の世界では、実際にフィリピンを始め東南アジアから日本に出稼ぎに来ている人たちが多いという事実があります。加えて、彼らは家族やコミュニティーのつながりを大切にするというイメージを持っています。現在の日本は、人と人との繋がりが薄れてきていますので、その部分を『対比』させるため、フィリピンの人々を登場させました。この作品の中では唯一、マリアだけが自分の意思で正しいと思ったことに基づいて行動しています。それ以外の登場人物(日本人たち)は、自分がどうしたいかよりも、他人の顔色、世間の評判を気にし、空気を読むことが、行動の基本となっている…その違いも描きたかった」

「PLAN 75」制度の下で、手順に沿って職務をこなしていく二人の若い職員。老人たちと触れ合う時間が増えるにつれ、「非人間的なことを行っているのではないか、このまま死なせていいのか」と疑問を持ち始める。

「本作で描きたかったのは、『社会的弱者の現状』『人と人のつながり』『人間的な部分』です。高齢化社会、核家族化、無関心が進む日本社会で、今、私たちに足りないものは何か…。その部分について考えるきっかけになればと思っています」

「泥の河」から始まった映画人生

「小学校の時に観た『泥の河(1981年)』が、それまでに観ていた映画とまったく違う印象でした。主人公が子どもで、その視点で見た世界が描かれ、深く共感したことを覚えています。映画に興味を持ったきっかけと言えばその映画ですね」

小学生だった当時は、「監督」や「カメラマン」の違いすら理解していなかったが、漠然と映画作りに携わった仕事に就きたいと考えていたという。

成長し、映画監督を目指してニューヨークの大学に入学。

「思春期の多感な時期、主人公に感情移入し、映画の作り手の存在を意識するようになってきました。国やバックグラウンドが異なっていても『こんなにも共感でき、心が通じ合うことができるんだ』と感銘を受けたのを覚えています。興味の対象ができたことで『拠り所』が生まれ、心が豊かになれました。自分が生きているこの世界で、もし孤独を感じたとしても、自分の知らないどこかで、『映画』を介して誰かと通じ合い、その存在を感じることができること。それが私にとっての映画の醍醐味です」

PLAN 75
■4月21日(金)から上映開始
■会場:IFC Center:
 323 6th Ave.
■一般$17、子ども/シニア$14
www.ifccenter.com/films/plan-75

日本クラブで行われたパネルディスカッション

パネルディスカッション
「PLAN 75」が問う生き方の選択


日本クラブとNY日本商工会議所は4月20日(木)、日本クラブ・ローズ・ルームで「映画『PLAN 75』が問う生き方の選択」と題したパネルディスカッションを開催。大塚泰子氏(米IBM/京都大学経営管理大学院客員准教授)、平野共余子氏(映画史研究者)、望月良子氏(JASSI理事長)が早川監督を囲んだ。

NY在住経験を持つ早川監督は、「自己責任」という点において大きな日米の違いを感じ、日本人の社会的弱者に対する意識の低さを感じたことが本作に結び付いた、と語った。

また、欧米と日本では「多様性」についての定義に差があること、さらに高齢者の現状の違いなどについても意見交換が行われた。


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