2018年4月27日号 Vol.324

C・エヴァンス、オンブロデビュー
好感度ゼロの卑劣な警官で
「ロビー・ヒーロー」


Chris Evans, Bel Powley (Photo by Joan Marcus)


John Lennon with Elton John


マーベル映画「キャプテン・アメリカ」で主役のクリス・エヴァンスが、ついにブロードウェイデビューです。ブルーアイズのマッチョなイケメン、そんな彼が演じているのは、好感度ゼロの実に嫌な警官です。これまでずっと正義の味方ばかり演じていたため、180度違う役を演じてみたくなったんだろうな、と納得してしまいました。それくらい、卑劣で嫌~な役。しかも脇役なのです。
どうしてクリスのような大物がこんな仕事受けちゃったんだろうな、と考えてみると、説得に役立っただろう魅力ある大きな点が2つ。
まずこの「ロビー・ヒーロー」が、こけら落とし公演であることが一つ目。43丁目のオフの劇場を拠点に、舞台製作する「セカンドステージ」は、「ネクスト・トゥ・ノーマル」と「ディア・エヴァンハンセン」で2回、トニー賞ミュージカル作品賞を受賞。由緒正しきヘレンヘイズ劇場を買い取り、ブロードウェイ進出を果たしました。ビッグ・ヒット作を2回出すと、ブロードウェイに劇場が買えちゃうわけです。
二つ目は、今年、映画「マンチェスター・バイ・ザ・シー」でアカデミー脚本賞を受賞したケネス・ロナーガン監督が脚本を手がけた作品だったからでしょう。

舞台は、99年のマンハッタンにあるマンション1階の深夜3時の玄関ロビー。登場人物は警備員2人と警官2人の4人だけです。
受付に常駐する警備員・ジェフは、彼女もいない27歳のさえない独身男。海軍の英雄だった父親の背中を追い、自分も海軍に進んだものの、喫煙と賭博がバレ、3年で海軍を追放になって、家に居場所がありません。家族と極力顔を合わせずにすむ、夜勤の警備員の職はジェフにとって願ってもない仕事でした。
ある日、会社の上司でアフリカ系のウィリアムが、勤めて間もないジェフの勤務の様子を抜き打ちで視察に来ます。カウンターの裏にスナック菓子や飲みかけのコーラ、エロ本が置いたままになっているのを発見すると、「たるんでいる」と叱責します。
そこへ制服警官の2人組がやって来ます。クリス演じる万能感を身にまとった「スーパー・コップ」のビルと、パートナーの新人女性警官ドーンでした。自信満々のビルは、すべてが上から目線。映画「ピンクパンサー」のクルーゾー警部のような立派な口ヒゲをたくわえ、セクハラ、職権乱用、人種差別、何でもありの横暴男。しかし、ドーンはそんなイケイケのビルに思いを寄せています。ビルはウイリアムとも顔見知りで、警官風を吹かせてウイリアムに大きな態度を取り続け、ウイリアムは早々に帰って行きます。ビルは勤務中にも関わらず、私用でこのマンションにやって来て、その上、「用事が済むまで待っていろ」と相棒をロビーに残し、1人、22階へ消えて行きます。
2人きりになったジェフとドーン。ジェフはひと目で彼女を気に入りますが、女性とほとんど話したことがないため、うまくコミュニケーションが取ることができません。話すこともなくなり、つい、ビルが訪ねている22階に住んでいるのは、モデルあがりの女優だと口走ってしまいます。
翌日、また同じ深夜3時にやって来たウイリアムは、手持ち無沙汰にジェフに愚痴を口走ります。妻と別れ、住む家を失った彼は、実家の家族とよりを戻していましたが、弟が殺人事件に巻き込まれてしまったというのです。彼は弟のアリバイを偽証するよう頼まれ、最低な気分だと荒れています。
その夜、上司と入れ違いに警官コンビがまたもやマンションにやって来ます。前日同様、ロビーに残されたドーンと2人きりになったジェフは、気まずい時間を過ごしたくないばっかりに、ある人の話として、ウイリアムの身に起きた悲劇を話して聞かせます。ルーキーとはいえ、警官の直感が働いたドーンは、ジェフのたとえ話が自分の管内で起きた未解決の殺人事件であることにピンと来ます。ドーンはジェフに、「その話はあなたの上司の話よね」と強く詰め寄るのです。

驚きだったのは、楽屋口から出て来たクリスが、えらい好青年だったこと。あのいやらしい口ヒゲは実はつけヒゲで、ツルツルの鼻の下に戻った彼の素顔は爽やかなキャプテン・アメリカそのもの。待ち構える山のようなファンにきちんとサインをして回っていました。
演技だけで見ている客にまで憎悪感を抱かせるあれだけ嫌な警官になって見せたのだから、彼の演技力は大したもの。デンゼル・ワシントンが悪徳警官を演じてオスカーを受賞したように、見てくれだけじゃなく、きちんと演技ができる実力ある役者なんだと印象づけることに成功したブロードウェイデビューでした。(佐藤博之)

Lobby Hero
■5月13日(日)まで
■会場:Hayes Theater
 240 W. 44th St.
■$99〜 ■上演時間2時間15分
2st.com/shows/current-production/lobby-hero



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