2020年4月17日号 Vol.372

動き続けるアート界の新たな挑戦
バーチャル展や塗り絵アート


Installation view of Zsófia Keresztest, Glossy Inviolability, 2020 ブッシュウィックにある作家運営の画廊「エライジャ・ウィット・ショールーム」は、ブダペスト拠点の 作家ジョフィア・クラシュテスのガラスモザイクの彫刻を紹介。Courtesy the artist and Elijah Wheat Showroom


Megan Marrin, The Rest Cure, 2019-2020 「プラットフォーム」展の参加画廊「クイア・ソーツ」の展示から。 Courtesy the artist and Queer Thoughts, New York


Louise Lawler. Still Life (Candle) (traced). 2003/2013 イラストレーター、ジョン・ブラーとの共作による12点の塗り絵のひとつ。 Courtesy the artist and Metro Pictures, New York


3月中旬から、ニューヨークの美術館や画廊はどこも閉まっている。この状況はおそらく夏まで、画廊ビジネスの場合は、7、8月のシーズンオフを経て秋まで続くかも知れない。だが、アート界は動いている。各ウェブサイトでは、趣向を凝らしたオンライン展示が活発になり、これまでVIP顧客しかアクセスできなかったネット上のビューイングルームを開放する画廊も目立っている。

特筆すべきは、このビューイングルームを活用した大手画廊「デイヴィッド・ズワーナー」の新企画「プラットフォーム」=①=だろう。ダウンタウンやブルックリンにスペースを構える若手画廊12軒のオンライン展示を一堂に集めたもので、「47キャナル」「ビューロー」「ラミケン」など、ユニークで実験的な画廊が勢揃い。もしあなたがアート収集を始めるなら、ここから見るべきという画廊巡りのお手本と言ってもいい。
ともあれ、画廊サイトの紹介であれば、リンクを貼るだけでよさそうなものだが、ズワーナー傘下という点が重要なのだ。実際、開幕から1週間で2万件を超えるアクセスがあったという。このアクセスは、ズワーナーにとっても顧客の新規開拓の点で有益だろうが、作品の販売自体は各画廊の直轄で、ズワーナーが手数料を取るわけではない。「引き合いの点でもプレスの関心の点でも反響が大きく、販売に繋がるノウハウをズワーナーから学ぶこともできる」と、参加画廊のひとつ「エライジャ・ウィット・ショールーム」の主宰者が語るように、まずはアート界の相互扶助としての役割が大きいようだ。

一方、ズワーナーと並ぶ大手画廊「ペース」=②=は、昨年秋に8階建ての自社ビルをお披露目し、展覧会はもとより作家トークやパフォーマンスなど、美術館顔負けのプログラムを誇ってきた。そうしたアート企画のすべてが、いまやお蔵入りとなったわけだが、バーチャル展示の精度はさすが。個々の作品画像であれ、展示風景であれ、解像度や撮影者の技量によるのか、なるほど見応えがある。アングルを変え、超クローズアップで細部が写された彫刻など、正直、実際に会場で見るよりインパクトがあるかも。
各作品には値段の表示があり、これは、前述の「プラットフォーム」展や、他の画廊サイトも同様だ。画廊経営はとかく不透明といわれ、作品価格も非公開のままが多いが、オンライン展示は、実に鑑賞者のためというよりは、売るための戦略のひとつ。「ボルトラミ」や「ギャヴィン・ブラウン・エンタープライズ」など、どの画廊もいまやビジネスの主力はネット上とあって、サイト一新の案内には力がこもっている。

この点で、美術館のウェブサイトは、収蔵品のオンライン図録としての機能はともかく、肝心の展覧会の様子はいまいち豊かに伝わってこない。が、「自宅で美術館!」を謳うメール案内だけはたくさん届く。そのなかで、ちょっとほっこりした好企画が、MoMAが勧める塗り絵アート=③=だろう。
誰でも自由にダウンロードできて、塗りの部分がいっぱいある12点の線描画は、なんと写真家ルイーズ・ローラーの作品をもとにしたもの。その作品とは、美術館やオークションハウス、有名コレクターのお宅などに飾られた美術品を撮影し、アートの流通や所有の問題を明らかにしていくといった、いわばコンセプチュアルな写真なのだが、精緻な構成だけに塗り絵にはぴったり。ジェフ・クーンズのウサギ=表紙画像=や村上隆のバルーン、河原温の日付絵画など、作品探しをする楽しみもある。

言うまでもなく、オンライン展示に最適なのはフィルムやパフォーマンス記録など映像作品だが、その意味でいま見直したいのが、PBS制作の作家ドキュメンタリー「ART 21」=④=だ。もともとTV番組として始まったものだが、その若手版「ニューヨーク・クローズアップ」は、YouTubeはじめさまざまな動画サイトでも見ることができる。

そして最後に、アンドリュー・W・メロン財団を中心に複数の美術財団が共同で立ち上げた「作家救済」のプログラム=⑤=も見逃せない。いまから9月まで、毎週20人の作家に5000ドルの支援金が供与される(詳細はサイト参照)。とにもかくにも、アート界は動いている。(藤森愛実)

①Platform: New York
@ David Zwirner Viewing Room (5月1日まで)
www.davidzwirner.com

②Pace Gallery Viewing Rooms
www.pacegallery.com/viewing-rooms

③Louise Lawler's Tracings for You @MoMA
www.moma.org/magazine
塗り絵のダウンロードはこちら

④Art 21: New York Close Up
art21.org/series/new-york-close-up

⑤Artist Relief for COVID-19
www.artistrelief.org



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