2023年03月31日号 Vol.442

異なる作風の2人がコラボ
相乗効果が生んだ新たな世界観
増田裕士 & 佐野まひろ「Yin and Yang(陰と陽)」

作品「Lost and Found」の前で、増田裕士(左)と佐野まひろ

現代美術作家の松山智一が率いる「松山スタジオ」。ブルックリンを拠点に、自らの創作活動のみならず、アーティストの育成にも力を注いでいる。

互いに切磋琢磨しあう環境で出会った2人の若手アーティスト、増田裕士と佐野まひろが、カフェ・グランピーでコラボ展「Yin and Yang(陰と陽)」を開催中だ。スタジオ内で、増田が担当する作品にデザイナーとして参加していた佐野、2人の共同作業の下地は、すでに出来上がっていた。


増田裕士
「路上で描いた似顔絵」


幼少時、家の白い壁に、「めちゃめちゃな絵を描いていた」と打ち明ける増田。

「小学生の頃、友達の前ではおちゃらけていましたが、学級委員として『相談ボックス』に投函されたお悩みを解決するなど、真面目な部分もありました」

2010年、日本で広告業界に就職した増田だが、「大量消費」や「大量廃棄」へ疑問を持ち、自然を相手にした「マリンスポーツ」業界へ転身。環境保護活動などにも従事した後、2017年、世界一周の旅を開始した。ところが最初の国で睡眠薬を飲まされ、1万ドルを奪われてしまう。旅の資金を調達するため路上で通行人の名前を日本語で書いていた際に、「似顔絵を描いては?」とアドバイスを受ける。これが、「アーティスト・増田」の始まりだった。

絵を描きながら76ヵ国を巡った後、2018年に帰国。旅先で養われた知識や経験を生かし、アーティストとしての活動をスタートした。渋谷109の新ビジュアル制作、個展、アディダス・オリジナルの新作スニーカー「スタンスミス」とのコラボなどを経験。2021年にはユニクロとMoMAが行うコンテスト「UTGP2020+MoMA」で入賞し、2022年5月からニューヨークで活動を続けている。

「考え方や態度など、『ほぼ日』代表の糸井重里さんから影響を受けています。好きなことは、アイデアを考え、実現すること。嫌いなことは戦争です」

佐野まひろ
「両親から受けた影響」


「小さい頃はマイペースで、周囲から『頭の中はお花畑』と言われていました」と笑う佐野。

「土曜日は『パパと一緒に工作とお絵描きの日』と決まっていて、それが一週間のハイライトでした。父はとてもクリエイティブで、ダンボールからほぼ天井まで届く滑り台をデザインして組み立てたことも。今思うと、アートに興味を持ったのは父の影響が大きかったかもしれません」
日本で生まれ、父親の転勤でスロバキアの首都ブラチスラバに移住した佐野。小学校の大半をスロバキアで、中高時代は日本で過ごした。

2018年、オハイオ州セダービル大学で地質学を専攻するが、「本当に学びたいものは何か」を自身に問いかけた結果、2年後には同州のデザイン学校ICCへ転校、工業デザインを専攻する。在学中、日本企業とリモートでプロダクト・グラフィックを含むデザイン関連のインターンを経験。「徳島STEAMプロジェクト」や、幼児向け教育アニメ「STEAMO」に携わった。

2022年5月、ICCを卒業後、ニューヨークでの活動を開始した。

「私が最も影響を受けたのは両親です。彼らは本当に大切なものは何か、身を持って教えてくれました。もう一人は、大学時代からの友人、ジャクソン。彼とは夜中まで人生についてよく語りました。アートへの愛を再び気付かせてくれたのも彼でした」

さらに、目標とする人物として「祖母」を上げ、「彼女ほど謙虚で、周りに献身的な愛を注ぎ続ける人は知りません」と続けた。

コラボ作品「Lost and Found」

今回、2人は「Lost and Found」というタイトルでコラボ作品を制作=写真=。外から見えるものと、内側に潜むものの共存を描いている。

増田「まひろさんは、いつも周りを笑顔にするような明るい性格。ですが作品には、普段、スタジオで見せないような面が表現されていて、彼女の中にある多様性を感じます」

佐野「鑑賞者にポップな第一印象を与える増田さんの作品ですが、ひとつ一つにその思想が内包されていると思います。知れば知るほど、奥深いモノが見えてくるのではないでしょうか」

一人で制作する場合と、コラボとの違いとは何か。

増田「自作の場合、リーダーは自分自身だけですが、コラボ作品は2人がリーダーです。相手があって成立する作品は、良くも悪くも予定不調和で、おもしろいですね」

佐野「描きたいことを自分のペースで進めるのではなく、共通のテーマや互いのスケジュールを考慮した上で成り立つのがコラボ。互いの思想を共有し、固定観念に縛られず、チャレンジできることが利点だと思います。コラボを通して増田さんのことを少しずつでも知ることができて嬉しいです」

ポップな作風の増田と、プロダクトデザインも手がける佐野。ふたりが生み出した新たな世界観が展開されている。

二人展「Yin and Yang(陰と陽)」
■4月15日(土)まで
■会場:Café Grumpy Fashion District
 200 W. 39th St. (bet. 7th & 8th Aves.)
■観覧無料 ■問合せ:admin@matzu.net
cafegrumpy.com/locations/fashion-district


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