2023年03月31日号 Vol.442

生涯制作2000点以上
知られざる巨匠
個展「キョウヘイ・イヌカイ」

展示風景 (Photo © Naho Kubota)

ジャパン・ソサエティー(JS)・ギャラリーで3月17日(金)から、日系アメリカ人アーティスト、キョウヘイ・イヌカイ(1913〜85年)個展「キョウヘイ・イヌカイ」が始まった。6月25日(日)まで開催されている。

1960年代後半から80年代にかけての100点以上の作品をはじめ、晩年の作品を紹介したイヌカイにとって初めての個展となる。油彩で描かれた抽象画、墨絵を思わせるフォルムを研究した作品、大胆な色彩と幾何学的な形からなる優雅で遊び心溢れるシルクスクリーンなど、ほぼすべての作品を紹介。イヌカイの素材、線、空間に対する探求的なアプローチについて深く鑑賞できる。


今日までほとんど知られていないイヌカイは、生涯に2000点以上の作品を制作した多作な作家。日系アーティストとして、歴史的多様性を映し出す鏡であると同時に、20世紀のアメリカ美術に深みを与える人物だ。

画家・犬飼恭平(いぬかい・きょうへい)と、ルシーン・グッドナウの三男として生まれ、幼い頃から美術に親しんだ。両親の母校であるシカゴ美術館附属美術大学で学び、ナショナル・アカデミー・オブ・デザイン、アート・スチューデンツ・リーグ・オブ・ニューヨークで研鑽を積んだ。父の死後、その名前を引き継いでいる。

展示風景 (Photo © Naho Kubota)

生活のため商業アーティストとして、広告代理店に勤務したこともある。その経験は、今回展示されるいくつかのセリグラフの連続性からも見てとることができる。

またイヌカイは、木版画、パブリックアート、彫刻も手掛けており、児童書の著者とイラストレーターを兼任。その絵画や版画作品は、アメリカの抽象画、ポップアート、商業デザインに加え、墨絵や和紙といった日本の芸術的伝統を通じて、抽象化への道筋を立てて制作されている。

Untitled, c. 1980–85 (Courtesy of Inukai Estate, Weston, Connecticut)

展示会場の設計を手掛けたのは、ニューヨークのアンテナデザイン。共同創設者の宇田川信学とシギ・モスリンガーは、展示作品の多様性を強調するため、ギャラリーを2つのゾーンに分け、それぞれが補完し合うように設計。墨絵用には、ベンチに座ってゆっくり鑑賞できる「ロックガーデン」を建設している。

宇田川とモスリンガーは、「一つは明るく風通しが良く、親しみやすい空間。もう一つは暗く静かで、内省的な空間。それぞれの空間は、作品の特徴が強調されるように意図しています」と話す。

■3月17日(金)〜6月25日(日)
■会場: JSギャラリー 333 E. 47th St.(bet. 1st & 2nd Aves.)
■一般$12、シニア/学生$10、JS会員/16歳以下無料
※毎週金曜日6:00〜9:00pmは入場無料
JS会員限定 :水・金12:00〜1:00pm
■TEL: 212-715-1258
www.japansociety.org


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