2018年3月30日号 Vol.322

世界屈指のピアニスト2人
A・シフとM・ポリーニ
4月の「カーネギ−2選」


Maurizio Pollini (Photo © Jennifer Taylor)


András Schiff (Photo © Priska Ketterer / Lucerne Festival)


早くも今年度の音楽シーズンも余すところ約2ヵ月。そして春本番となる4月。この時期のカーネギーでは、例年のように実力派のソロアーティストたちが世界各地からやってきて個性的かつ魅力的なプログラムを繰り広げる。なかでも今回は、特に音楽性・技巧ともに世界でも指折りのトップクラスピアニストの2人、アンドーシュ・シフと、マウリツィオ・ポリーニのソロリサイタルに焦点を絞って紹介したい。

ハンガリーのブタペスト出身のピアニスト、アンドラーシュ・シフ。1970年代、同じくハンガリアンピアニストのコチシュとラーンキと共に、「若手三羽烏」と呼ばれながら活動を開始。当時は三人の中で一番地味な印象だったが、1980年代にイギリスの名門レーベル、デッカとともに続々とバッハの録音を発表以来、バッハやモーツァルト、ベートーベンなどの、スタンダードな楽曲での演奏で、常に高い評価を得てきた。
そのシフも今年で65歳となり、近年のコンサートではまさに熟練の域に達した演奏を聴かせている。
また、バッハの装飾音の解釈などは、最新の学問・学究的成果を次々と取り入れる勤勉さも持ち合わせている。現在はロンドンおよびフィレンツェを拠点とし、2014年にはエリザベス女王誕生日を記念する叙勲名簿の発表において、英国よりナイト爵位を授与。近年は、自分でピアノを弾きながらオーケストラを指揮する、いわゆる「弾き振り」の活動にも力を入れている。
今回のカーネギーでは2公演を行う。
3日の演目は、メンデルスゾーンの「ファンタジア」作品28、ベートーベンのソナタ嬰ヘ長調作品78、ブラームスの「8つの小品」作品76と「幻想曲集」作品116、そしてバッハの「イギリス組曲」第6番ニ短調。
5日の演目は、シューマンの「創作主題による変奏曲」、ブラームスの「3つの間奏曲」作品117、「6つの小品」作品118、「4つの小品」作品119、モーツァルトのロンドK・ 511、バッハの「プレリュードとフーガ」ロ短調(平均律クラヴィーア曲集第1巻より)、そしてベートーベンのソナタ変ホ長調作品81a「告別」を披露する。

29日には、大御所マウリツィオ・ポリーニが登場。今年はポリーニがカーネギー・デビューしてから50周年記念となる。イタリアのミラノ出身。若干18歳で、第6回ショパン国際ピアノコンクールに審査委員全員合意のもとに優勝。審査委員長だった巨匠アルトゥール・ルービンシュタインが、「彼はこの審査員の中の誰よりも上手に弾ける」と呟いたという逸話はあまりにも有名。1971年に名門レーベルのドイツ・グラモフォンと契約を結んで以来、ショパン録音での金字塔とも言われたあの「練習曲集」など数々の名盤を生み出し、膨大な数のリサイタルや一流指揮者・オーケストラとのコンサートを重ねてきた。レパートリーはバッハから現代音楽(ジャコモ・マンゾーニやサルヴァトーレ・シャリーノ等の楽曲の初演なども手がけた)まで実に幅広い。日本では2010年に高松宮殿下記念世界文化賞を受賞している。ちなみに、ポリーニは日本の伝統文化への関心・愛着が殊の外深く、日本公演ツアーの折には京都や奈良の神社仏閣を何回も訪れているそうだ。
今回のコンサートではポリーニの18番、ショパンの前奏曲嬰ハ短調作品45、「バルカローレ(舟歌)」作品60、ソナタ第2番変ロ短調、そして最近発売となったニューアルバムにも収録されているドビュッシーの「前奏曲集」第2巻(全曲)を演奏する。

スタイルも芸術感も全く異なる2人の超一流ピアニストたちだが、カーネギーでは共に「ファブリーニ仕様」スタインウェイで演奏するものと思われる。まさに円熟期にある彼らの演奏を、ぜひ堪能してみたい。(木川貴幸)

Sir András Schiff
■4月3日(火)・5日(木) 8:00pm
■$19〜


Maurizio Pollini
■4月29日(日) 2:00pm
■$25〜


■会場:Stern Auditorium / Perelman Stage
 Carnegie Hall
 881 Seventh Ave
■212-247-7800
www.carnegiehall.org



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