2019年3月29日号 Vol.346

ミッドタウン2つの新展示
フォード財団ギャラリー
ジャパン・ソサエティ・ギャラリー

フォード財団ギャラリー
Mohamad Hafez, Damascene Athan Series, 2017. Photo by Sebastian Bach. Courtesy Ford Foundation Gallery

フォード財団ギャラリー
Sara Rahbar, America, Flag #53 (left) and Land of the Free, Flag #55 (right), 2017. Tiffany Chung, Finding one's shadow in ruins and rubble, 2014. Photo by Sebastian Bach. Courtesy Ford Foundation Gallery

ジャパン・ソサエティ・ギャラリー
「荒野のラジカリズム:グローバル60年代の日本の現代美術家たち」展示風景 Photo by Richard Goodbody. Courtesy Japan Society, New York

ジャパン・ソサエティ・ギャラリー
The Play, Current of Contemporary Art, 1969. Courtesy of The Play


ミッドタウンの東、42丁目沿いにあるフォード財団の建物は、要塞のごとき石造りの支柱壁とそれとは対照的なグリッドのガラス壁面から成るちょっと不思議な外観だ。中に入れば鬱蒼とした樹木の庭園がロビー全体に広がっている。庭園は開放的な公共空間であり、この3月5日、43丁目側にオープンした「フォード財団ギャラリー」もまた、無料で一般公開されている。
フォード財団が、今回新たにギャラリースペースを設けた背景には、アートを通して社会の不正や不公平(貧富や教育の格差、非白人や移民に対する扱い)を正したいという明確な目的がある。こうした動きは、MoMA理事長を長年務めた有力コレクター、アグネス・ガンドが私財を投じて創設した「正義のためのアート・ファンド」の活動とも繋がっている。
社会に何かしら変化をもたらしたいという思いは、現トランプ政権の迷走とも無関係ではないだろう。とはいえ、「正義のためのアート」とは必ずしも美しくない、往々にして教条的だ、などなど批判はつきものである。本展に参加する内外の作家18人のリストには、正直、一人として知っている名前はなかった。
ところが、写真、映像、廃品のオブジェなど、さまざまに展開する展示作品は、ビジュアル的にインパクトのあるもの、詩的情緒が感じられるもの、ズバリ近年の事件を彷彿とさせるものなど、足を止めて見入ってしまう作品が多い。ティファニー・チャンの小さなライトボックスが並ぶインスタレーション、モハマド・ハフェズの路地や家屋を連想させる精緻なレリーフなど、ローカルな主題の中にも普遍的なアート言語が宿っている。

この新ギャラリーから北へわずか4ブロック、JSギャラリーで開催中の展覧会もまた画期的だ。本展は、ニューヨーク拠点の美術史家でキュレーターの富井玲子が2016年に刊行した英文書籍「荒野のラディカリズム:国際的同時性と日本の1960年代美術」(MIT出版)をベースに、富井とJSギャラリー館長の神谷幸江が協働で立ち上げたもの。ちなみに富井の著作は、2017年、デダラス財団主催「ロバート・マザーウェル・ブック・アワード」を受賞している。
日本人研究者がアメリカでも有数の図書賞に輝くということ自体、快挙であり、その立体版ともいうべき展示もまた、豊富な資料とクリアな会場構成によって実に見応えあるものとなっている。主役の美術家たちは、物質性を持たないアートを標榜した日本のコンセプチュアリズムの先駆者、松澤宥(ゆたか)(1922〜2006)、大雪原のパフォーマンスで知られる新潟現代芸術家集団「GUN」(67年結成)、川下りや旅など同様に自然を巻き込んだプロジェクトで知られる大阪拠点の集団「プレイ」(67年より活動)であり、近年世界的な評価を集める日本の戦後美術の中でも、おそらく多くの観客にとって馴染みのないアート領域といえよう。
実際、すでにMo MAの潤沢なコレクションで知られる松澤の場合も、常設展で見る作品には限りがあった。本展には、金属や写真溶剤を使った初期の絵画からシュールな絵柄や記号を収めた「プサイ」シリーズのコラージュやプリント、言葉の書付や記録映像、書簡まで、個展規模の作品が集まっている。
この松澤の場合であれ、GUNやプレイの場合であれ、よくぞここまでと思うほどに集め尽くした関連資料の数々は驚異的だ。さらに特筆すべきは、富井の主張にある「国際的同時性」の意味づけである。実際、77年に始まるプレイの雷を呼び込むプロジェクト「サンダー」は、奇しくも同年、米ニューメキシコ州の砂漠に登場したウォルター・デ・マリアの「稲妻の平原」と比べずにはいられない。また、純白の雪原にネオンカラーの顔料を撒き散らしたGUNの試みは、同様に雪野原を舞台とした旧ソ連の作家グループ「モスクワ・コンセプチュアリスト」による集団行為「出現」を連想してしまう。
こうした偶発的同時性こそ、現代アートの面白さなのだろう。「いま」に向かって発言するフォード財団の社会派アートであれ、JSギャラリーの美術史的展開であれ、ミッドタウンの新アートマップは実に刺激的だ。(藤森愛実)

Perilous Bodies
■5月11日(土)まで
■会場:Ford Foundation Gallery
 320 E. 43rd St.
■入場無料
www.fordfoundation.org

Radicalism in the Wilderness:
Japanese Artists
in the Global 1960s
■6月9日(日)まで
■会場:JS Gallery
 333 East 47th St.
■$12、学生/シニア$10
www.japansociety.org


HOME