2022年3月25日号 Vol.418

ポップの帝王、マイケル・ジャクソンの光と影
ショーとドラマが凝縮
ミュージカル「MJ」

ライブの雰囲気満載の舞台美術はトニー賞受賞のデレック・マクレーン All photos by Matthew Murphy

「人類史上最も成功したエンターテイナー」のギネス世界記録を持つマイケル・ジャクソン−MJ−の評伝ミュージカルがブロードウェイで上演中だ。

コロナ禍による延期や主役の交代を経て、2月1日に開幕。マイケルの子どもたちや各界のセレブが集結したオープニングの模様は、本紙2月11日号でも紹介した。
コンサートとドラマを凝縮したダイナミックなミュージカルだ。



1992年、ロサンゼルスのスタジオ。「デンジャラス・ワールド・ツアー」の準備は佳境を迎えていた。完璧を求めるマイケルの要求で予算は跳ね上がり、稽古場の緊張感もマックス。スタッフは頭を抱えていた。
場面はマイケルの子ども時代にさかのぼる。マイケルと兄たちは「ジャクソン5」を結成、父の厳しい指図の下、スターダムを駆け上る。成長したマイケルはソロのキャリアをスタート、1982年の「スリラー」が空前絶後の大ヒットとなり、スーパースターの座を不動のものにする。だが、名声の陰で、愛情の薄い父親との関係のトラウマ、人種差別、執拗なマスコミ、鎮痛剤中毒などが彼を蝕んでいた。
いよいよ、ツアーの幕が開く…。

この再現度。MJ独特のシャウト「ヒーヒー」が聞こえてきそう

気になる楽曲は、ジャクソン5時代の「ABC」「アイル・ビー・ゼア」から、「ビートイット」「ビリージーン」「バッド」「今夜はドントストップ」とずらりと30曲以上。アンサンブルとの一糸乱れぬダンスシーンが次々に繰り出され、シグネチャーのムーンウォークやゼロ・グラヴィティも惜しげもなく披露される。スパンコールを散りばめたジャケットに白い靴下、トレードマークのキラキラ光る手袋にさえ観客は大喜び。

音楽、ファッション、ミュージックビデオ、ライブの演出、常に革新を求め続けたマイケル・ジャクソン。アーティストとしてのマイケルに焦点を当て、特にファンではなかった筆者でさえ、彼がいかに類いまれな才能の持ち主だったかに圧倒された。

リハーサル風景と過去を瞬時に行き来するテンポの良い演出と振付は、バレエ出身のクリストファー・ウィールドン。マイケルの動きにモダンダンスの要素を加味し、ダンスが前に出た舞台に仕上がっている。
脚本はピューリッツァー賞を2度受賞したリン・ノッテージ。今、引く手あまたの劇作家で、人種やジェンダーなど社会的なテーマへの取り組みに定評がある。「MJ」の制作には、マイケルの遺産管理団体も関わっているだけに、脚本には様々な制限があったことは想像に難くない。本作のストーリー執筆は綱渡りのような絶妙なバランスが必要とされたことだろう。きらびやかなショーの根底に悲劇的なニュアンスが流れているのは、ノッテージの作劇の力量である。

注目のマイケル役は、今作でブロードウェイ・デビューを果たしたマイルズ・フロスト。声や動作の完璧な再現のみならず、パラノイア的なエキセントリックさまで体得しているのには脱帽。子ども時代(ウォルター・ラッセルIII)と青年時代(タヴォン・オールズサンプル)のマイケル役も大喝采を得ていた。

プロデューサーには、吉井久美子氏(ゴージャスエンターテイメント社長)と木下直哉氏(木下グループ代表取締役社長兼グループCEO)が名を連ねている。

ダンスと衣装の早替わりで大忙しのアンサンブルも出色

本作には、マイケル・ジャクソンという人物の全てが語られている訳ではない。容姿や私生活のスキャンダルに加え、少年への性的虐待疑惑で告発されたのは1993年のこと。本作がその前の時代に設定されていることは物議をかもした。2005年の裁判では、容疑全てに無罪判決が下された一方、2019年に虐待の被害者と名乗る人物のドキュメンタリーが公開され、死後13年になろうとしている今も、MJへの毀誉褒貶は続いている。

デンジャラス・ツアーのブカレスト公演がYouTubeで公開されている。劇中、マイケルがこだわった「トースター」効果は観客を熱狂させた。それは、紛れもない真実である。(高橋友紀子)

MJ
■会場:Neil Simon Theatre
 250 W. 52nd St.
■$35〜
■上演時間:2時間30分
mjthemusical.com


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