2022年3月25日号 Vol.418

JS公演「時を超えた波音ー沖縄の伝統舞踊と音楽」 
「沖縄の伝統文化を知るきっかけに」
インタビュー:嘉数道彦(舞踊家)

公演前、インタビューに応じる嘉数道彦氏 Photo by KC of Yomitime

ジャパン・ソサエティ舞台公演部は、沖縄の施政権返還50周年を記念し、沖縄の伝統文化・芸能を紹介する「時を超えた波音ー沖縄の伝統舞踊と音楽」を開催した。全米5都市を巡るツアー公演で、グリーンビル(サウスカロライナ州)に続きニューヨークは2都市目、3月18日(金)・19日(土)に上演された=他、ワシントンDC、シカゴ、イーストン(ペンシルベニア州)=。 19日の公演前、準備の合間を縫って舞踊家の嘉数道彦(かかず・みちひこ)氏に話を聞いた。




Q:ニューヨーク・タイムズ紙は「沖縄返還50周年の今、改めてアメリカで沖縄の伝統文化・舞踊・音楽に触れることは大変興味深いこと」と紹介

A:私自身、返還後の生まれですので取り立てて「返還50年」という意識はありません。ただ、多文化の影響を受け、発展を遂げてきた沖縄の文化を、アメリカ本土で紹介出来ることは大変興味深く、貴重な体験です。

来米前、「アメリカ人はどんな反応を示すのだろうか?」 という興味と同時に、「受け入れてもらえるだろうか」という心配はありました。昨日、ニューヨーク初公演を終えたのですが、観客の皆様が第一部「組踊」を食い入るように観ておられ、第二部では舞台を盛り上げていただいことで、そんな不安も消えました。また、当然のことながら文化・習慣・言語が違いますので、沖縄芝居の上演時には「えっ? ここで反応する?」という驚きもありました。これは新しい発見であり、貴重な経験。どこの国でも同様ですが、演じている最中、思いかけずに異文化に触れた瞬間が、とても楽しいと感じます。

返還50周年という節目に米国で公演が出来たことは、実に喜ばしいことであり、心地よい緊張感の中で充実した公演を行うことができたと感じています。

Performers: Michihiko Kakazu, Photo © Maria Baranova

Q:ユネスコ世界無形文化財リストに登録される「組踊(くみおどり)」について

A:もともと琉球は中国と深い関係に有り、組踊は、首里王府が中国皇帝の使者である冊封使(さくほうし)を歓待するために、踊り奉行であった玉城朝薫(たまぐすくちょうくん)(1684〜1734)が創作した宮廷芸能です。沖縄が琉球国であった時代に誕生した「国劇」とも言われる宮廷芸能の一つで、演劇、琉球の言葉、音楽、踊りを組み合わせた歌舞劇です。ただ、言葉の問題がありましたので、解説書や通訳が用いて上演されていました。もちろん、中国語での上演も可能だったとは思いますが、やはりどこかオリジナルとは異なってくる場合も出て参りますので、主に琉球の言葉が使われていました。

とは言うものの、現在の沖縄では、ほとんどの人々が琉球語を理解できませんので、沖縄でも字幕を用いて上演しています。

Q:玉城朝薫とは、どんな人物?

A:「踊り奉行」という役職に従事していたことから、今でいう「総合プロデューサー」的な人物だと推察されます。知識も抱負で、素晴らしいものを多く残されています。

Performers(l to r) Takahiro Uehara and Michihiko Kakazu, Photo © Maria Baranova

Q:出演者は全員、沖縄県立芸術大学出身で、沖縄返還後に誕生。改めて「地方固有の方言・習慣・文化」などが見直されている現在、以前と違う点など

A:やはりコロナ禍の影響で、我々芸能に従事する者たちもインターネット配信を多用する動きが出てきております。以前は、沖縄に来ないと観られない、感じられないものが多くありましたが、今はインターネットで簡単にご覧いただけます。固有の文化・芸能を紹介する我々にとっても歓迎すべき動きであり、やはり皆さんが、「自身のルーツを改めて見直す」という機会になっているのではないでしょうか。「歴史・文化の継承」という意味では、より多くの人々に興味を持っていただけるのは良いことです。映像だけでは伝わらない部分も多々ありますが、沖縄の伝統文化を知るきっかけになってくれれば…と思っています。

Q:琉球伝統を後世に伝える使命、目標、信念など

A:これまでの歴史の中で、大きな苦難を乗り越えた先人たちが、今の沖縄を築き上げました。沖縄返還も含め、その都度、影響を受けながらも守られてきた歴史・文化を伝えてきた先人たちの功績に、大きな魅力を感じております。

同時に私たちもその歴史をしっかりと受け止め、感謝を込めながら、次の世代により良いものを伝えていきたいと思っています。

Performers(l to r) Takana Kojima, Takumi Tamaki, Michihiko Kakazu, Sayuri Chibana, Takahiro Uehara, Yukihiro Gushi, Hokuto Ikema, Itsuo Nakamura, Satoshi Iritakenishi, Kazuki Tamashiro, Yoshimori Nakamine

Q:後継者と観客

A:沖縄の場合、なかなか芸能のみで生計を立てるのは難しいのですが、中には仕事を持ちながら情熱をもって芸能に取り組まれてる方もいらっしゃいます。沖縄県立芸術大学、そして国立劇場おきなわが開場してからは、勉強する場や紹介する場が増え、環境が整って参りました。それに伴い興味を持つ若い世代が集まって参りましたので、現状として「後継者不足」はありません。ありがたい限りです。

その一方で、必要だと感じるのは「観客」です。ミュージカルのように、なかなか若い世代に興味を持ってもらえないのが現状。伝統的な部分を学び、継承しながら、新しい作品作りに励んでおります。

Q:見どころ

A:今回の上演は、二部構成で第一部が宮廷芸能の「組踊」、第二部が大衆芸能の「雑踊」を紹介しています。

組踊は、琉球で一般市民に対しての娯楽として創作されたものではなく、一つの外交手段として用いられた芸能でもあり、他文化の影響も受けています。所作・動きなどは「能」に近いものがあるとは思いますが、言語をはじめ、琉球音楽や文化が見て取れます。歌や三線も存分に盛り込んでいますので、音楽なども堪能頂けます。

日本国内でも沖縄の文化芸能は特色あるものだと思います。今回、貴重な機会を頂き、演者・スタッフ一同、心を込めて努めて参ります。ぜひこの機会に沖縄文化に触れて頂ければと思っております。


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