2019年3月15日号 Vol.345

千年の流れ幅広く紹介
「源氏物語」展in New York 〜紫式部、千年の時めき〜
メトロポリタン美術館で

源氏物語

源氏物語
②俵屋宗達「源氏物語関屋澪標図屏風」六曲一双 [上:澪標図、下:関屋図](江戸時代)Photo: Courtesy Seikadō Bunko Art Museum

源氏物語
①「紫式部聖像」(室町時代)黒い背景部分に源氏物語の6つの場面が描かれている。(左上から:夕顔、若菜、末摘花、花宴、薄雲、玉鬘)Photo by YOMITIME

源氏物語
③「一字蓮台法華経〈普賢菩薩勧発品〉」Photo: Courtesy Yamato Bunkakan

源氏物語
④「黒塗二葉葵唐草葵牡丹紋散蒔絵女乗物」Photo: Courtesy Smithsonian Institution

源氏物語
⑤「色絵夕顔文茶碗」Photo: Courtesy Museum Yamato Bunkakan

源氏物語
⑥大和和紀の「あさきゆめみし」カラー原画 Photo: ©Yamato Waki


メトロポリタン美術館(以下メット)で、世界最古の長編小説ともいわれる「源氏物語」をテーマにした展示「『源氏物語』展 in New York〜紫式部、千年の時めき〜」が3月5日(火)から始まり、6月16日(日)まで開催されている。日本とアメリカから120点以上の美術品を選定、源氏物語を包括的に紹介する。

女流歌人・紫式部が平安時代中期に書いた源氏物語。全54帖(巻)の物語は、平安時代の貴族社会を背景に、主人公・光源氏の恋愛模様を中心にその人生と、子孫の話などが綴られている。
紫式部が参籠し、源氏物語を書き始めたとされるのは滋賀県大津市の石山寺。本展会場入口には石山寺本堂が再現され、観音像が来場者を出迎える。一般公開に先駆けて行われたセレモニーでは、石山寺から来米した僧侶たちによる開白法要(仏に行事の趣旨を伝え無事成功を祈る儀式)が営まれた。
今回、石山寺から貸し出された11点の内、3点が重要文化財。「如意輪観音半跏像」(旧御前立)と、石山寺の草創と観音の霊験を描いた「石山寺縁起絵巻」から「巻第三」と「巻第四」だ。また、艶やかな絵巻や掛け軸の中で、ひときわ異彩を放つのは、古くから石山寺に伝わる黒い大きな図「紫式部聖像」=写真①=。紫式部を描いた最古の作品で筆者は不明、観音菩薩の化身として描かれているという。近年の最新技術により、黒い背景部分に源氏物語の6つの場面が描かれていることも発見されている。

本展ハイライトは2つの国宝で、開催初日から6週間の限定展示。
ひとつは、京都で活躍した絵師・俵屋宗達による「源氏物語関屋澪標図屏風」=写真②=。六曲一双の屏風で、源氏物語の第14帖「澪標(みおつくし)」と、第16帖「関屋(せきや)」を取り上げたもので、共に源氏と女性たちの再会シーンが描かれている。
「澪標図」は、明石から帰京した光源氏が住吉大社を参拝する場面で、中央の牛車に光源氏が、右上の船には明石の君が乗っているという構図。偶然、同じ日に参拝に訪れた明石の君が、光源氏の雅で盛大な一行を目にし、身分の差を痛感。再会を避け、船から降りずに立ち去っていく。
「関屋図」は、光源氏が石山寺へ向かう途中、逢坂の関で愛人だった空蝉の一行と出会う場面。左の牛車に空蝉が、右の牛車に光源氏が乗っていて、光源氏は懐かしさのあまり空蝉へ文を贈る。
いずれの図も当人たちは直接描かれておらず、近くにいても会えない、切ない心を表現したといわれている。

もうひとつは、「一字蓮台法華経〈普賢菩薩勧発品〉」(いちじれんだいほけきょう・ふげんぼさつかんぼつほん)。=写真③=平安時代後期の作で、金箔や銀箔を散りばめた紙に、「法華経」二十八品の最終部分「普賢菩薩勧発品」が書写された経典。一字ずつが「蓮台」(仏・菩薩が座る蓮の花の台座)に乗るように描かれ、その回りを金輪が囲んでいることから、一文字一文字を仏に見立てているという。洗練された仏教美術の傑作。

8つのテーマで構成された本展は、絵画、書、着物、漆器、浮世絵など、源氏物語が誕生した11世紀から現代までを幅広く駆け足で紹介。篤姫が婚礼に設えたという女乗物(駕籠)の「黒塗二葉葵唐草葵牡丹紋散蒔絵女乗物」=写真④=には源氏物語の「胡蝶」が、尾形乾山の茶碗「色絵夕顔文茶碗」には夕顔の花と和歌が描かれるなど、源氏物語が後世に与えた影響は大きい。魅力的な登場人物たちが織りなすストーリーに美しい絵をそえた絵巻物は、正に「漫画」の原点だ。それを示唆するかのように、源氏物語を漫画化した大和和紀の「あさきゆめみし」のカラー原画が、本展フィナーレを飾る。日本文化と源氏物語の関係を探ったメットの深い洞察力が感じられる展示である。

The Tale of Genji:A Japanese Classic Illuminated
■6月16日(日)まで
■会場:The Met Fifth Avenue
 1000 Fifth Ave.
■大人$20、65歳以上$17、学生$12、メンバー/12歳以下無料 
※NY州居住者およびNY州/NJ州/CT州の学生(要ID)は入場料任意
www.metmuseum.org


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