2022年3月11日号 Vol.417
New Films from Japan : ACA Cinema ProJect

ACAシネマプロジェクトシリーズ第3弾「New Films from Japan」が3月11日(金)から17日(木)まで、IFCセンターで開催される。海外での日本映画上映と展開を促進する目的で行われる文化庁委託事業「日本映画海外展開強化事業」プロジェクトだ。今回は「BLUE/ブルー」(吉田恵輔監督)と、「由宇子の天秤」(春本雄二郎監督)が上映。それぞれの監督へ、映画にかけた想いを聞いた。

すべての挑戦者へ贈るエール
「BLUE/ブルー」
吉田恵輔 監督

吉田恵輔 監督

「基本的には愛のある映画を作りたいと、いつも思っています。人間を描写するには短所と長所、両方を描くことが必要。短所を掘り下げた作品も多いのですが、それでも『人間って愛おしい』と思えるようなキャラクターを目指しています」と説明する。

3人のボクサーを主軸にした人間ドラマ「BLUE/ブルー」。中学2年からボクシングを続けているという吉田監督。自ら脚本を書き、拳闘シーンでは殺陣指導も担当した。



「主人公・瓜田(松山ケンイチ)のモデルは実在の人物です。10年以上前に出会った人で、選手でもあり、トレーナーもしていました。私も一緒に練習したり、ミットを持ってもらったりと、お世話になった方です。彼はC級ライセンス(4回戦)で、2勝13敗の記録を残して引退。一般的にボクサーは、数敗すると引退してしまうのですが、彼は勝てなくても、ひたむきに練習を続け、負けても笑顔で他の選手を応援できる、とても素敵な人でした」

「BLUE/ブルー」 ©2021 “BLUE” Film Partners /©2021「BLUE/ブルー」製作委員会

長く努力し続けている人物ほど、自分自身の限界が見えてくる。他者の「才能」を目にした時、嫉妬し挫折を味わう。

「『才能』については、時代や流行りなども大きく作用するのではないかと考えています。私自身、映画監督を目指して自主映画の映画祭に何度も挑戦、ずっと落選してきました。諦めようとも思いましたが、それでもやめることが出来ませんでした。才能がどうこうというよりも、『好き』という気持ちが最優先されたからだと思います。続けた結果、どうなるかは分かりませんが、好きなことを続けている『姿』は、たとえ惨敗しようとも美しい。その美しさは結果より、豊かなものかもしれません」

どんな分野でも「大成する」のは一握り。多くの人々にとって、「夢」はやはり夢なのが現実だろう。

「『夢』とは、よく使われる言葉ですが、『夢=呪い』のような側面があると思っています。手に入れるまでは楽しく、指針となりますが、それが叶った瞬間に一転する。その喜びを噛み締める余裕もない中で、次の階段を登らなくてはいけないという焦り、せっかく手にした夢に逃げられてしまうという恐怖もあるでしょう。私にとっての夢とは、試練であり、その過酷さが生きがいなのかもしれません。夢の終わりが崖でないことをいつも願っています(笑)」

「BLUE/ブルー」 ©2021 “BLUE” Film Partners /©2021「BLUE/ブルー」製作委員会

本作のCMは「譲れないものは、ありますか?」と、我々に問いかける。監督にとって「譲れないもの」とは何か。

「自分の作りたい作品だけを作りたい。生活の為、仕事がないなど、不安もありますが、『これで失敗するなら悔いはない』という仕事を選びたい。刺し違える覚悟を持てる作品と向き合う、そこは譲れない部分です」

映画に登場するのは、どこにでもいそうな普通の人々だ。負け続けるボクサー、頭に爆弾を抱えるボクサー、女にモテたくてボクシングを始める男…。ハリウッド映画のような見目麗しいスーパー・ヒーローは登場しない。

「ボクシングの試合で『青コーナー』に立つのは挑戦者、加えて青い炎は温度が高い、それがタイトル『BLUE/ブルー』の意味するところです。すべての挑戦者たちに『今、お前は最高に格好良いぞ!』と言ってあげたい。それがどんな結果になろうとも!」

好きなコトを差し違える覚悟で続けていく。それには特別な「才能」や「夢」が必要な訳ではないと、「BLUE/ブルー」は伝えている。

「BLUE/ブルー」(BLUE)あらすじ、上映日程はこちら


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