2022年3月11日号 Vol.417
New Films from Japan : ACA Cinema ProJect

ACAシネマプロジェクトシリーズ第3弾「New Films from Japan」が3月11日(金)から17日(木)まで、IFCセンターで開催される。海外での日本映画上映と展開を促進する目的で行われる文化庁委託事業「日本映画海外展開強化事業」プロジェクトだ。今回は「由宇子の天秤」(春本雄二郎監督)と、「BLUE/ブルー」(吉田恵輔監督)が上映。それぞれの監督へ、映画にかけた想いを聞いた。

誰もが持つ心の本質を問いかけ
「由宇子の天秤」
春本雄二郎 監督

春本雄二郎 監督

女子高生イジメ自殺事件の真相を追求する、ドキュメンタリー・ディレクターの主人公、由宇子(瀧内公美)。取材の過程で、自らの父が犯した罪を知ったことから、彼女の『真実』が揺れ動いていく。

「映画自体が、『正義とは何か? 真実とは何か?』を問いかけています。個人から見える真実、それぞれの人々から見える真実など、異なった立場から見える景色を描きたいと思いました。スマホを持っていれば誰でも情報発信ができてしまう今、情報を正しく扱い真実を伝える『プロ』の存在は重要です。ところが、その『プロ』の人間が窮地に立たされた時、果たして真実を正しく伝えられるのか。それが真実に忠実であるべき報道関係者だった場合、どう行動するのだろうか。天秤のように揺れ動く『真実』を、『ドキュメンタリー作家』の目を通して描いています」



約14日間で撮影したという同作。監督自らスケジュールを決め、時間配分しながら演出。長く助監督を務めていた手腕を発揮した。

「今回、制作テーマのひとつとして、『演出』『脚本』『音響効果』で、全編を見せたいと考えていました。私がこれまで関わってきた作品には、音楽を挿入することで、『音楽に頼っている』と感じるモノもありました。もちろん、音楽も映画の重要な要素であり、作品をより豊かにしますから、それを否定するわけではありません。ただ私は音楽を使わず、音響効果、例えば自然の音、子どもの声、電車の響きなど、実際の『音』を使いたかった。本作では、鑑賞者にもたらす効果を、音響担当と話し合い、計算・予想しながら制作。音楽が流れるシーンもありますが編集で挿入したのではなく、撮影中に流れていた音楽を使用しています。鑑賞者それぞれが、さまざまな想像力を掻き立たせることに繋がれば嬉しい」

「由宇子の天秤」© “A BALANCE” FILM PARTNERS

同作は、アジア各国のみならず、ヨーロッパや北・南米など、40に迫りそうな数の映画祭で上映され、高評価を得ている。

「アジア圏、特に中国や台湾、韓国の人々からは、大きな共感を得ていると感じています。一方で、欧米の人々は『日本の恥の文化』と結び付けているのではないでしょうか。日本の『家名に泥を塗る』という言い回しに象徴されるように、『社会的な罪を隠そうと動くのが日本人の特徴』として捉え、その部分と重ねているのではないかと感じます。ですが、最近では『恥』よりも『恐怖』が勝っている。建前を気にしない世代がふえ、欧米ではバッシングされる恐怖に共感を感じているのではないかと分析しています」

SNSなどを通して誰もが情報発信者になれる現代。激増した情報量、複雑化したネット社会での「真実」は千差万別だ。

「人間であれば誰もが持つ弱さや狡さといった普遍的な部分。正義を声高に掲げている人々が、己の公正さ、罪の暴露を問われた時に抱える矛盾。人間らしい脆弱性を描いたことが、環境や文化を超えて人々に理解されたのだと思います」

「由宇子の天秤」© “A BALANCE” FILM PARTNERS

嘘をつき続けることで得られる利益と、真実を暴露することで失うもの。被害者、加害者、親子、師弟、友人など、監督は普通の人々が持つ多種多様な「天秤」を映し出す。

「人間の弱さや揺らぎ、真実は多面的であるという側面、我々に欠けていることは何か、自分のことには真剣になれても、他人事ならどうか…そういった人間の本質を探りたかった」

「由宇子の天秤」(A Balance)あらすじ、上映日程はこちら


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