2022年2月25日号 Vol.416

忘れていた大切なものを
呼び覚ますような絵を
画家 藤本まり子

「感覚を共有したい」と話す藤本まり子

「子どもの頃、野外で捕まえた昆虫や生き物、友人や家族がいる風景をよく描いていました。両親が、自然や生き物を好きだったことに影響されたのだと思います」と話すのは、ブルックリンを拠点に活動する画家、藤本まり子。東京生まれ、両親と妹2人の5人家族で育った藤本の子ども時代は、「少し気が弱かった」と打ち明ける。自分が描いたモノを家族や友達が喜んでくれたことが絵を好きになったきっかけだ。「似顔絵が『似てる!』と言われると、とても嬉しかったことを覚えています」

そんな少女が描いた絵を、両親や祖父母は、家の壁にずっと飾っていた。その何気ない行為は、藤本が「絵を仕事にするくらい、好きであり続けられている」ことに繋がっていった。



「ファインアート」を意識したのは高校2年の時。教師の勧めで通い初めた美術系予備校で現代美術の特集記事を目にした。それまではデザイン関連の職業しか知らなかったが、その記事をきっかけにファインアート・コースに変更。高校卒業後は、多摩美術大学へ。同大絵画学科油画専攻卒業後、東京でいくつかのアート関連プロダクションで経験を積み、腕を磨く。

2016年には、国際的に活躍するきっかけ作りを目指す「アクリルガッシュビエンナーレ」(主催:ターナー色彩)で、2020年には、真に力がある作品を選出する「FACE 2020 損保ジャパン日本興亜美術賞」(主催:公益財団法人損保ジャパン日本興亜美術財団 )で、それぞれ受賞。昨年7月、ニューヨークでの活動を開始させた。

Looking at the very distant sky right there, Acryl and crayon on canvas/ 63.7×51.1 inches / 2021

昔から「絵本を読むことが好き」だという藤本。影響を受けた作家にディック・ブルーナ、エリック・カール、レオ・レオニをあげる。「絵や物語も好きですが、グラフィック・デザイナーから転身し、絵本作家になったという、『やりたいことを続ける』という姿勢に感銘をうけました」。

その他、ミヒャエル・ボレマンス、ピーター・ドイグ、サイ・トゥオンブリー、松山智一、五木田智央、鴻池朋子などのアーティストにも影響を受けた。「作品のコンセプトと美しいビジュアル、特に人物を含めた具象と抽象の絶妙なバランスなど、『共存の方法』を学び、目指しています」

藤本は自身の作品について「日常的な風景を、独自の『フィルター(空想)』を通して描いている」と表現。

「日常の景色に『物語性』を持たせること。『物語』は日常をドラマティックに変化させ、鑑賞者に『共感』を呼び起こします。根本にあるのは、私の感覚を『共有したい(して欲しい)』という想い。自分が経験し考えたことを『絵』に置き換えることで、皆さんに『わかる!』『この感じ、知ってる気がする』と感じて貰いたいです」

YAMAKAMI MINAKAMI, Acrylic on canvas / 18×24inch / 2021

来米後は主に、人物にフォーカスを当てた作品が中心。鑑賞者が絵を観るのと同様に、絵画の中の人物もまた、「鑑賞者を見ている」というイメージで描くことが多いという。「描きたい作品のイメージが湧き、ここからどう仕上げていくかを考える時間が楽しい。人物の顔、特に目を詳細に描きこんで、絵からOKが出た時も嬉しいです」。絵から「観られている」という感覚、それこそが藤本の示す「共感」の片鱗だろう。

3月10日(木)から19日(土)まで、天理ギャラリーで開催されるグループ展「Boundaries of CANON」に参加。展覧会に出品した絵が完売するほど良い作品を描けるように、さらに、自らマネージメントができる様になることが当面の目標だ。

「美しい自然や芸術に触れ感性が研ぎ澄まされた時、忘れていた大切なことを思い出す…そのきっかけになるような絵を描きたい」

Boundaries of CANON
■3月10日(木)〜19日(土)
オープニングレセプション:14日(月)6pm〜8pm
■会場: Tenri Cultural Institute Gallery
43A W. 13th St.
★藤本まり子:
instagram.com/mariko_fujimoto


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