2019年2月22日号 Vol.344

[連載(4)]
激動する国際社会

中 国

内田忠男
(国際ジャーナリスト / 名古屋外国語大学・大学院客員教授)

内戦、地球温暖化、核兵器拡散<


実はこれが一番厄介だ。共産党一党独裁を堅持、13億の大人口を擁する最大最強の専制国家である中国。急成長の端緒は冷戦終結の1992年。当時、事実上の最高指導者だった鄧小平が突如、「社会主義市場経済」を提唱(本来は水と油なのだが)し、外資の積極導入に乗りだしたことで、激安の労働賃金、土地代などにつられた先進諸国の製造業がドッと中国へ進出。「世界の工場」と呼ばれる輸出基地に変身した。
しかし中国は、ただ外資に門戸を開けたのではなく、中国国営企業との50対50の合弁という形を取らせた。そうすることで先進国企業の経営ノウハウや、最先端の技術を労せずして取り込める、盗み取れるという、誠に巧妙な戦略だった。
これにより中国経済は毎年2桁の超高度成長を実現。2010年には日本を追い抜いて世界第2の経済大国にのし上がった。潤沢な外貨を背に軍備拡張にも乗出し、東シナ海や南シナ海で領海・権益拡大など、国際法に悖(もと)る現状変更を重ねてきた。
そして現在、中東、アフリカ、欧州につながる西方に向けた新シルクロード計画「一帯一路」構想を打ち上げている。一つは陸路で中国西部から中央アジア・イラン・トルコなどを経由して欧州に至るルート(一帯)。
もう一つは海路で南シナ海からインド洋のミャンマー、スリランカ、モルディブなどを経て紅海、地中海・大西洋に至る海のルート(一路) 。
中国主導によるシルクロード経済圏を海陸両面から作り上げる構想で、沿線となる東南アジア、中央・南アジア、アフリカ諸国は60カ国以上。総人口は世界の6割にあたる45億人。こうした国々に巨額のカネを貸付けて道路、鉄道、港湾、空港などインフラ施設を建設し、返済不能となれば、完成したインフラや、その地面を租借などの名目で掠め取り、そこに軍事施設を作る。実際にこれら諸国には、2017年の1年間で201億ドル、円換算すれば2兆2千億円を超す直接投資。まさに沿線諸国に債務のワナを仕掛けているといえよう。
この構想を下支えするのがAIIB (アジア開発投資銀行)や BRICS Bank。一党独裁で巨額の国費を惜しみなく注ぎ込んでも、どこからも文句がつかず、それにより先進国主導の国際金融システムからの脱却、中国版 IMF構築さえ目指しているという、まさに経済覇権戦略だ。
2017年10月に開かれた中国共産党大会で、習近平総書記は「新時代の中国の特色ある社会主義を、中華民族の偉大な復興を実現する行動指針にする」という習近平思想を共産党規約に書き込んだ。行動指針というのは毛沢東思想や鄧小平理論だけだった。2018年3月に開いた全国人民代表大会では、この習近平思想を憲法にも明記、2期以内とされていた国家主席の任期を無制限とし、毛沢東死去以来の集団指導体制から一極体制に改変してしまった。まさに、やりたい放題である。
習近平が示した党の中長期目標は、第1段階が2020年から35年までに経済や科学技術の実力を高め、技術革新型国家の先頭に登り詰めるというもの。 第2段階の 2035年から今世紀半ば(建国100年の2049年を想定)には、社会主義の現代化強国を作り上げ、総合国力で世界をリードする国家になる、いわゆる「中華民族が世界諸民族の中でそびえ立つ存在となる!」と覇権主義むき出しの口上も含まれていた。
2015年に発表した中国製造2025(Made in China 2025)は、 製造業発展のロードマップで、技術革新/品質優先/環境保全型発展/構造の最適化/人材本位などを基本方針に、国家創建100年となる2049年までに世界最大の製造業大国になるという。ただ、そう上手くゆくかどうか…。
中国の資金は潤沢なように見えて実はそうではない。外貨準備は2018年9月末で3兆870億ドルで3兆ドル割れが目前、2020年までには、さらに2兆ドルが流出すると予測される。
輸出頼みの中国経済だが、アメリカの「超」がつく高関税政策で輸出はかなり減ると見なければならない。さらにここに来て中国経済が減速局面に入り、昨年7月に発表された2018年7月〜9月の成長率は6・5%。1月〜6月の6・7%から0・2ポイント下がり、 政府が2015年に新常態として掲げた7%の目標を大きく下回った。2017年1年間の成長率も公式発表で6・9%。私がよく知るアメリカのエコノミストは、「中国の統計は絶対に当てにならない、公式発表の数字は少なくとも2割以上差し引いて見ろ」と言う。 日本のバブルがはじけた後、日本経済は3つの過剰=「借金」「設備」「労働力」=に苦しめられた。今の中国も、これによく似た状況になっている。そこにアメリカとの貿易戦争だ。株価急落や経済指標の相次ぐ悪化を受け、中国経済が急減速し、強権の政府でも歯止めが効かなくなる懸念が高まっている。このため、世界各国の市場で人民元売りが加速。2018年のGDP成長率は、前年比6・6%と、1990年以来、28年ぶりの低水準であった。
しかも中国には、深刻な国内問題がある。一つは、共産党員による汚職・不正の蔓延。もう一つは、チベット族やウイグル族など少数民族を圧迫する政治への不満が高まっている点である。こうした民衆の不満を抑え込むため、反日、反先進国、権益拡大といった外交に関心を引き付けようとして来た。だが、これも、もはや機能しなくなっている。
習近平政権の前途は多難だが、毛沢東以来の強力な指導者像を作り上げ、難局打開を図る最大要因は、民衆の不満が飽和状態に達して共産党による統治が危うくなることを防ぐことにある。ごく最近の習近平主席の発言に、かつての覇気が見られなくなったのは、こうした内憂外患のせいではないか、との観測が広がっている。 (一部敬称略)

=次号は「国際テロリズム」 =


HOME