2019年2月8日号 Vol.343

祝い事から死まで
装飾品にみる文化と役割
「ジュエリー:変容する身体」

ブレスレット
東ローマ帝国時代のブレスレット Jeweled Bracelets, 500–700, Gift of J. Pierpont Morgan, 1917 (All photos courtesy of The Metropolitan Museum of Art)

ジュエリー
Francesco I de' Medici (1541–1587), Grand Duke of Tuscany

ネックレス
真珠のネックレスを身につけたジャズシンガーのジョセフィン・ベイカー Ford Motor Company Collection, Gift of Ford Motor Company and John C. Waddell, 1987

ジュエリー
Yashmak, Shaun Leane (British, born 1969), Designed for Alexander McQueen (British, founded 1992)


メトロポリタン美術館(以下メット)で開催中のジュエリー展「ジュエリー:変化する身体」が哲学的だ。一般的に「ジュエリー」といえば、宝石や貴金属を使用して作られた装身具であり、その美しさや稀少価値などが注目される。しかしメットは、本来、ジュエリーが果たしていた役割に着目。祭事、祝事、戦闘、死に至るまで、世界各地で異なる民族が、それぞれの文化・習慣の中でどのようにジュエリーを利用していたかを紹介している。

展示は大別すると5つ。①「The Divine Body(神の身体)」では、古代がテーマ。神話によれば、メソポタミアの女神イシュタルが冥界に下りる際、身につけていた宝石を剥ぎ取られ、その力を失った…とあるように、古代で宝石類は神聖なものであり、神に繋がるものだと信じられていた。
エジプトのミイラや王族たちの宝飾品、ヨーロッパの青銅器時代、南米の黄金文化などから、彼らは宝石で「神」を具現化、自らを装飾することで、神秘的な力を取り込み、神に近づこうとした。
②「The Regal Body(王の身体)」では、王や権力者にフォーカス。墓の中から「王」を見つけるのは難しいことではないという。サンゴや金、翡翠、真珠などの原材料が、その特権階級を示している。広大な帝国を築いたアレキサンダー大王や、東ローマ帝国の装飾品、当時のアフリカで最大最強の国家・ベニン王国の青銅品などに加え、その傍らにいた女性たちが所有していた宝飾品などから、権力者たちの力が見て取れる。
③「The Transcen dent Body(超越した身体)」では、精神的な側面を検証する。インドで「金」は神々のものであり、アフリカで「ビーズ」は祖先や部族との絆であり、太平洋の島々で「装飾品」には霊的な力が宿ると考えられていた。それらを身につけることにより、災いを避け、神秘的なパワーが得られると信じることは、人々の助けになっていた。
④「The Alluring Body(魅惑的な身体)」では、女性を飾るジュエリーがどのような役割を果たしているかを考察する。古典的な真珠のネックレス、江戸時代のクシやかんざし、結婚式用の装飾品、近年の奇抜な装身具など、宝飾品を通しての女性美を検証する。
⑤「The Resplendent Body(華麗な身体)」では、「ジュエリー」そのものについて考える。素材やデザイン、職人技により、素晴らしいアイテムが誕生。アンティーク・ ジュエリーとして有名なイタリアの「カステラーニ」や、アール・デコを代表するフランスの「ルネラリック」、アメリカで身近な存在といえば「ティファニー」だろう。また、近年のアバンギャルドな作家たちは、ジュエリーが従来持っていた機能を再評価し、覆す。高価な金属はアルミニウムやプラスティック、樹脂などに置き換わり、ジュエリーは身体を装飾するものから、「メッセージを伝える媒体」へと変化している。

富や身分を誇示し、個人を特定するIDにもなるジュエリー。単なる装飾品ではなく、その背後にある文化や思想に焦点を当て、ジュエリーがどのように人々を形成してきたかを探る。

Jewely: The Body Transformed
■2月24日(日)まで
■会場:The Met Fifth Avenue
 1000 Fifth Ave.
■一般$25、シニア$17、 学生(要ID)$12
 12歳以下無料 (※要保護者同伴)
※NY州の居住者およびNY州/NJ州/CT州の学生は入場料任意(要ID)
www.metmuseum.org


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