アートが織りなす都市の横顔：ニューヨーク最新イベント情報【よみタイム】#Yomitime

2021年1月29日号 Vol.390
アートが織りなす都市の横顔ロックフェラーセンター、グラセン駅 Tom Friedman, Looking Up, 2020. Photo by Manami Fujimori 1月20日の大統領就任式が無事に終わり、いよいよ新しい年が始まったという気がする。この日、ニューヨークでは、新たな野外彫刻のお披露目があった。ロックフェラーセンターのプロムナードに佇む、ひょろりとした人物像。高層ビルの谷間の中では小さな存在だが、思い切り首をのけぞらせ、ビルの遥かてっぺんを仰ぎ見ている。文字通り「見上げる」と題されたこのスチール彫刻は、90年代から活躍する作家トム・フリードマンのシリーズ作品のひとつだ。爪楊枝やストローなど日用品を素材とする作家らしく、アルミホイルをくしゃくしゃに丸めたような胴体の表面には、カップケーキのホイルやテイクアウト用の容器も見える。コミカルな姿ながら、未来を見据える希望の力を象徴しているようだ。ロックフェラーセンターは、こうした野外アートの企画展示でつとに有名だが、建物内部を彩るアート作品も見逃せない。今年で３回目となるプロジェクト「アート・イン・フォーカス」には、いまをときめく注目作家が順繰り登場し、アール・デコ建築の内装に合わせた絵画やインスタレーションを発表している。今年のトップバッターは、ブルックリン拠点の作家ヒバ・シャバスだ。 Hiba Schahbaz “In My Heart” from 2021 Art in Focus. Photo by Olympia Shannon. Courtesy of Art Production Fund シャバスは、パキスタンのカラチに生まれ、ラホールの国立美術学校で細密画の手法を学んだ。紙をベースに、水彩絵の具やガッシュ、煮出した紅茶で彩色された作品は、通常は小さなサイズだが、今回は、複数のビルのロビーやコンコースの壁面を使って大掛かりな絵画連作を披露。どこか乙女チックな神話世界、ライオンが登場する女性像など、多くは自画像だという。なかでも見どころは、「45ロックフェラープラザ」。これは、かのアトラスの彫刻のある五番街に面したビルのことで、ロビー右手の３つの壁龕（へきがん＝花や彫像を置くために壁面に設けられた窪み）には、タペストリーのような大型絵画や切り絵の花々を散らしたインスタレーションが広がっている。地下のコンコースには、計40メートルもの長さに渡って淡い色彩の壁面パネルが続き、楽園風景に始まる、人の一生が描かれている。　このプロジェクトには、今後もサンフォード・ビガーズやヒラリー・ペシスら有望作家の新作が登場する予定だ。また、年末恒例のホリデーマップを担当するのは、カラフルなイラストで知られるリサ・コングドン。道ゆく人々に無料配布されるこのマップは、いまやコレクター・アイテムともなっている。ところで、ニューヨークのパブリックアートといえば、駅や空港など交通機関も重要な舞台だ。先ごろ大々的にオープンした「モイニハン・トレイン・ホール」を飾る現代アートも然り。そして、歴史建築を誇るグランドセントラル駅も負けてはいない。「MTAアーツ＆デザイン」の肝いりで、地下鉄駅へと続く大階段に登場したのが、ジム・ホッジズの色ガラスの大作「僕は世界を夢見て、それを愛と呼んだ」である。 Jim Hodges, I dreamed a world and called it Love, 2020. © Jim Hodges, NYC Transit Grand Central-42 St Station. Photo by David Regen. Courtesy the artist and Gladstone Gallery, New York and Brussels 最初に目に入るのは、濃い群青から淡いブルーまで、青のグラデーションが鮮やかな四角いパネル。これだけでも圧巻だが、さらに下れば、ボックス型の色ガラスの緞帳が、あたかも秋の黄葉のごとき豪華な迷彩パターンを紡いでいる。家路を急ぐ通勤客の目には、一瞬の光景かも知れない。だが、そうした「一瞬の輝き、色が織りなす時と場所のイメージをすべての人々に届けたい」と、作家は語っている。　コロナ禍のいま、通勤客であれ観光客であれ、その数は少ない。が、世界がもとに戻ったあかつきには、喧騒の中にさりげなく、そう、ニューヨークという都会の一部となって、この長いタイトルの作品は存在し続けるのだろう。ただあたりまえの風景として。（藤森愛実） Tom Friedman “Looking Up” ■３月19日（金）まで ■会場：Rockefeller Center 　Channel Gardens ■www.rockefellercenter.com Hiba Schahbaz: In My Heart ■5月4日（火）まで ■会場：Rockefeller Center, 　10, 30, 45 & 50 Rockefeller Plaza ■www.rockefellercenter.com Jim Hodges “I dreamed a world and called it Love” ■恒久設置 ■会場：Grand Central-42 St Station Tweet HOME

2021年1月29日号 Vol.390

アートが織りなす都市の横顔
ロックフェラーセンター、グラセン駅

Tom Friedman, Looking Up, 2020. Photo by Manami Fujimori

1月20日の大統領就任式が無事に終わり、いよいよ新しい年が始まったという気がする。この日、ニューヨークでは、新たな野外彫刻のお披露目があった。ロックフェラーセンターのプロムナードに佇む、ひょろりとした人物像。高層ビルの谷間の中では小さな存在だが、思い切り首をのけぞらせ、ビルの遥かてっぺんを仰ぎ見ている。

文字通り「見上げる」と題されたこのスチール彫刻は、90年代から活躍する作家トム・フリードマンのシリーズ作品のひとつだ。爪楊枝やストローなど日用品を素材とする作家らしく、アルミホイルをくしゃくしゃに丸めたような胴体の表面には、カップケーキのホイルやテイクアウト用の容器も見える。コミカルな姿ながら、未来を見据える希望の力を象徴しているようだ。

ロックフェラーセンターは、こうした野外アートの企画展示でつとに有名だが、建物内部を彩るアート作品も見逃せない。今年で３回目となるプロジェクト「アート・イン・フォーカス」には、いまをときめく注目作家が順繰り登場し、アール・デコ建築の内装に合わせた絵画やインスタレーションを発表している。今年のトップバッターは、ブルックリン拠点の作家ヒバ・シャバスだ。

Hiba Schahbaz “In My Heart” from 2021 Art in Focus. Photo by Olympia Shannon. Courtesy of Art Production Fund

シャバスは、パキスタンのカラチに生まれ、ラホールの国立美術学校で細密画の手法を学んだ。紙をベースに、水彩絵の具やガッシュ、煮出した紅茶で彩色された作品は、通常は小さなサイズだが、今回は、複数のビルのロビーやコンコースの壁面を使って大掛かりな絵画連作を披露。どこか乙女チックな神話世界、ライオンが登場する女性像など、多くは自画像だという。

なかでも見どころは、「45ロックフェラープラザ」。これは、かのアトラスの彫刻のある五番街に面したビルのことで、ロビー右手の３つの壁龕（へきがん＝花や彫像を置くために壁面に設けられた窪み）には、タペストリーのような大型絵画や切り絵の花々を散らしたインスタレーションが広がっている。地下のコンコースには、計40メートルもの長さに渡って淡い色彩の壁面パネルが続き、楽園風景に始まる、人の一生が描かれている。　

このプロジェクトには、今後もサンフォード・ビガーズやヒラリー・ペシスら有望作家の新作が登場する予定だ。また、年末恒例のホリデーマップを担当するのは、カラフルなイラストで知られるリサ・コングドン。道ゆく人々に無料配布されるこのマップは、いまやコレクター・アイテムともなっている。

ところで、ニューヨークのパブリックアートといえば、駅や空港など交通機関も重要な舞台だ。先ごろ大々的にオープンした「モイニハン・トレイン・ホール」を飾る現代アートも然り。そして、歴史建築を誇るグランドセントラル駅も負けてはいない。「MTAアーツ＆デザイン」の肝いりで、地下鉄駅へと続く大階段に登場したのが、ジム・ホッジズの色ガラスの大作「僕は世界を夢見て、それを愛と呼んだ」である。

Jim Hodges, I dreamed a world and called it Love, 2020. © Jim Hodges, NYC Transit Grand Central-42 St Station. Photo by David Regen. Courtesy the artist and Gladstone Gallery, New York and Brussels

最初に目に入るのは、濃い群青から淡いブルーまで、青のグラデーションが鮮やかな四角いパネル。これだけでも圧巻だが、さらに下れば、ボックス型の色ガラスの緞帳が、あたかも秋の黄葉のごとき豪華な迷彩パターンを紡いでいる。家路を急ぐ通勤客の目には、一瞬の光景かも知れない。だが、そうした「一瞬の輝き、色が織りなす時と場所のイメージをすべての人々に届けたい」と、作家は語っている。
　
コロナ禍のいま、通勤客であれ観光客であれ、その数は少ない。が、世界がもとに戻ったあかつきには、喧騒の中にさりげなく、そう、ニューヨークという都会の一部となって、この長いタイトルの作品は存在し続けるのだろう。ただあたりまえの風景として。（藤森愛実）

Tom Friedman “Looking Up”
■３月19日（金）まで
■会場：Rockefeller Center
　Channel Gardens
■www.rockefellercenter.com

Hiba Schahbaz: In My Heart
■5月4日（火）まで
■会場：Rockefeller Center,
　10, 30, 45 & 50 Rockefeller Plaza
■www.rockefellercenter.com

Jim Hodges “I dreamed a world and called it Love”
■恒久設置
■会場：Grand Central-42 St Station

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ロックフェラーセンター、グラセン駅