2023年01月13日号 Vol.437

観客との近い距離感
正しいモノを後世へ伝える
喜多流能楽師 友枝昭世・友枝雄人

友枝昭世氏(左)と友枝雄人氏(Photo by KC of Yomitime)

ジャパン・ソサエティー(JS)舞台公演部は昨年、喜多流による能公演「皇帝」(12月1日・3日)と「枕慈童」(12月2日)を上演。公演チケットは完売、大成功を納めた。来米した人間国宝の友枝昭世(ともえだ・あきよ)氏と同氏の養子・友枝雄人(ともえだ・たけひと)氏に話を聞いた。(以下敬称略)



観客の反応、日本との違い 

昭世:昔の話ですが、アメリカでの公演時に『アメリカ人はお世辞が上手い』と聞かされておりました。今回はその時よりも、遥かに好印象を持って頂いたと感じております。

雄人:私も非常に反応が良かったと思っております。日本国内でもここまで集客するのは容易ではありませんし、日本文化に興味を持たれている方々が多いことを改めて認識いたしました。

昭世:他の芸能では、声援が上がったり拍手があったりするんでしょうが、能楽はそういったものとは異なりますので、日米の反応そのものに違いを感じませんでした。ただ、舞台と観客との距離が日本より近いことには多少の違和感を覚えましたが、逆に観客の表情などが見られましたし、楽しんで頂いていると感じました。

雄人:全く同感で、距離が近い故に感じられた、いつもとは異なった一種の緊張感。そういうものを心地良く感じながら演じておりました。また、昨日の公演後に行ったQ&Aでは、観劇された8割以上の方々が参加、予想を上回る数で正直驚きました。さらに、質問内容の奥深さなど、ちょっと面食らう質問もありましたが、その熱心さを肌で感じる良い機会でした。

チケットも完売したJS公演 (Photo © Ayumi Sakamoto)

古典・伝統の継承と今後の展望

昭世:「伝統の継承」という意味では、その家に生まれた子どもたちが継ぐ「◯◯家」が中心ですが、やはり後継者不足問題はございます。最近は、これまでの「家」を軸とした考え方にも多少の変化もあり、この世界を志す人もおります。ですが修行時間も長く、まだまだ問題点は多いのが現状です。

雄人:特殊な世界ですので、演出を変えるようなことは出来ません。私の使命は演目を深く理解・咀嚼し、正しい形で後世に伝えて行くことに他なりません。最近では、練習ツールとしてコンピューターを利用する若者もおり、便利になったのは確かです。一方で「曲がった、違った解釈をされないだろうか」といった部分が心配。これまでにも武家社会から明治維新へ、戦前から戦後へなど、大きな時代の変化があった時も同様の危機があったと予想されますが、その都度、先人たちは努力して後世に正しいものを伝承してきました。今は我々がそれを行わなけれなならない。それが課された使命だと思っております。

昭世:若い世代へのアピールや海外に目を向けることも大切ですが、同時に、もう一度、自身に目を向け、より素晴らしいものを皆様にお見せ出来るよう努めて参りたいと思っております。


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