2019年4月26日号 Vol.348

都会的な音楽「ファド」
ポルトガルの文化と社会を反映
シンガーソングライター マリーザ

マリーザ


歓びの中に悲しみは潜み、運命の悪戯に女神は微笑む。感情は涙の引き金となり生命力を宿す。「ファド」を歌うマリーザ(MARIZA)は、張り裂けそうな感情を言霊にして聴き手に投げる。

マリーザはアフリカのモザンビークで、ポルトガル人の父とアフリカ系ポルトガル人の母の間に生まれた。若くして歌に目覚めたが、父は、重苦しく、さもなければ感情的なファドを彼女が歌うことを許さなかった。
「ファドには幾つかのスタイルの曲があって、幼い頃は軽めの歌詞のものだけを歌いました。父は感情的なファドなど、私が理解できる年齢ではないと思ったのでしょう。本当の意味でのファドを歌うようになった頃には、愛や情熱がどんなものか知っていたつもりですが、重々しいファドの歌詞を通して、日々の生活の中に生まれる感情には痛みが伴うことを次第に理解するようになりました」とマリーザは語る。
ポルトガル語で運命を意味するファド。
「ファドは都会的な音楽で、常に社会とともに流れ、作られていきます。最近、歌われるファドが、伝統を失うことなく、現代のポルトガルを反映しているのは自然のことなんです。(社会の)認識を深め、前進しようとしている。とても興味深いと思います」
ファドはポルトガル文化の一部で、感情の音楽の遺産、そして感情と本物のフィーリングを表現する都会の音楽。
「仮にあなたが、ポルトガル語を一言も話せなかったとしても、ファドの激しさに心打たれずにはいられないと思います。歌い、表現される言葉の嵐のような激しさを感じずにはいられないはずです」と続けた。

世界中の都市をツアーで訪れるマリーザは、ファドがユニバーサルな音楽だと考えている。コンサートで、ポルトガル語の歌詞がわからない観客が、彼女の音楽に触れた時、感動する姿を目の当たりにするからだ。ファドの魅力は言語を超え、国境を越え、聴き手の魂を揺るがす。
しかしファドは1820年代からポルトガルで歌い継がれる民族歌謡で、一般的なポピュラー音楽とは異なる。また、伝統へのこだわりは、変化を嫌い、発展から遠ざけかねない。新しいファド、マリーザが探し求めるファドは何なのだろう。
「私にとって、それは自然な進化とも言えるものです。自身のルーツを大切にする一方で、年齢を重ねるごとに、アフリカ人の自分がより明らかになってきて、今、それを探ろうとしています。私の最新アルバムを聴いてもらえれば、ハイブリッドな私を見つけることができると思うし、それが『マリーザ』という私の音楽、私独自のジャンルだということをわかってもらえるでしょう」
マリーザのデビューアルバム「Fado Em Mim」が発表されたのは2001年。それから20年近くもの年月が流れ、7枚目となるアルバム「Mariza」が昨年完成した。原点回帰とも言えるセルフタイトル。長年のレコーディングやコンサートの経験から来る自信と新たな出発を意味するのかもしれない。
「今回のアルバムでは、私(MARIZA)を表現する為の新しい言葉を探していました。『Fado Errado』、『Trigueirinha』、『Quebranto』など、歌い焦がれていた親しみのあるジョルジュ・フェルナンドの数曲を選びましたが、これらは今の私に相応しいと思ったし、私なりの解釈で歌いたかった曲たちです。これまでのレコーディングでも同じプロセスですが、私は40曲ほどを用意してスタジオに入り、そこから曲への理解を深め、純粋な気持ちで歌える15曲に絞りアルバムを完成させました」
こうしてできた「MARIZA」は伝統を超え、マリーザ独自の現在進行形のファドが詰まった珠玉の名曲集。ファド・ファンでなくても誰もが楽しめるアルバムになっている。

そのマリーザが5月1日(水)、マンハッタンのタウンホールでコンサートを行う。ファドと共に進化し、ファドに生きるマリーザがファドの真髄を聴かせてくれる。
マリーザは、ワールド音楽において、今、最も注目すべき、熱いアーティストの一人。令和時代の幕開けに相応しい必見のライブだ。(河野洋)

■5月1日(水)8:00pm
■会場:The Town Hall
 123 W. 43rd St.
 (Bet. 6th & Broadway)
■Box Office:212-997-6661
■$71〜
thetownhall.org


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