2019年4月12日号 Vol.347

ストリーミング3億回!?
SNSからブロードウェイへ
「ビー・モア・チル」

ビー・モア・チル
 カラフルな衣装はボビー・フレデリック・タイリー二世 Cast of BE MORE CHILL. All photos by Maria Baranova

ビー・モア・チル
ジェレミーはクリスティーンの眼中にも入っておらず… Stephanie Hsu & Will Roland

ビー・モア・チル
変身したジェレミーのモテぶりをスクイップが見守る Jason Tam, Will Roland & Lauren Marcus


ソーシャルメディアで拡散著しいバイラル現象を起こし、遂にブロードウェイ進出を果たしたミュージカルが登場した。SF風の青春モノを小気味よいポップロックで綴った「ビー・モア・チル」だ。
2015年にニュージャージーで初演。その後公演は行われていないにも拘わらず、共感を呼ぶストーリーとキャッチーな音楽がミレニアル世代の支持を受け、SNSや動画サイトで拡散。キャストアルバムも爆発的にヒットした。
意外な展開にクリエイターらも唖然。半信半疑で行われたオフ公演にはアメリカ全土と世界33ヵ国からファンが駆けつけた。満を持して2月にブロードウェイで公演を開始するやいなや、ライシアム劇場の売り上げ記録を更新。キャストアルバムのストリーミング回数は今や3億回を超えたという。
前代未聞の道のりでブロードウェイに到達した「ビー・モア・チル」。劇場では、パワフルな舞台にファンの興奮が相まって熱いエネルギーがギュンギュン渦を巻いていた。

ジェレミーは、パッとしないオタク系の高校生。演劇フリークのクリスティーンに思いを寄せているが、彼女は学校一のスポーツマンと急接近中。ある日、ナノサイズのスーパーコンピューター「スクイップ」入りの錠剤の存在を知る。飲み込むとスクイップが脳内から服装や言動について助言を与え、クールな人気者に生まれ変われるという。スクイップを手に入れ、見事「chill」な男子に変身を遂げたジェレミー。クリスティーンとも親しくなる。だが、親友のマイケルを傷つけてしまうことに。一方、スクイップには人類を自在に操ろうという邪な野望があった…。

ネッド・ヴィジーニによるヤングアダルト小説が原作。同じく男子高校生が主人公の「ディア・エヴァン・ハンセン」のドラマ性には及ばないにせよ、ジョー・トレイスの台本には脇役に至るまで高校生の悩みや思いが丁寧に描かれ、ティーンの共感を得たのも納得。ジョー・アイコニスの楽曲はその場で口ずさめるほどメロディアスで、意外な比喩をちりばめた歌詞も面白い。パーティでマイケルが一人ぼっちの切ない気持ちを歌ったバラード「Michael in the Bathroom」はショーストッパー(※注)。
ジェレミー役のウィル・ローランドは、変身後も微妙にオタクっぽさを残しているところがイイ。クリスティーン役に典型的な白人美女ではなく少し太めのアジア系女優ステファニー・スーをキャスティングしたのも天晴れ。スーのコメディセンスは抜群で、客席を沸かせっぱなし。ジェレミーにだけ見えるスクイップ役には「マトリックス」のネオを思わせるジェイソン・タム。一捻りあるキャスティングに加えて、10人の俳優がアンサンブルまでこなし、大予算のオン作品にはないひたむきさが伝わって来る。
スティーヴン・ブラケットの演出はコメディのリズムが軽快で、チェイス・ブロックの振付も独創的。ちなみにスクイップは日本製という設定で、日本語のプロジェクションやセリフにはニヤリとすること受け合い。
このミュージカルが熱いのにはもう一つ理由がある。作詞作曲のジョー・アイコニス(37)は20代からミュージカル作家として注目されていたが、鳴かず飛ばずの状態が続いた。地道にコラボレーターらと創作と発表を続け、「ビー・モア・チル」でとうとうブレーク。キャストとクリエイティブチームの大半がアイコニスの以前からのコラボレーターで、俺たちとうとうやったゼ!という歓喜と熱狂がそのまま舞台に現れている。
4月30日にトニー賞のノミネーションが発表されるが、本作の多部門ノミネートは確実。既に映画版も決定している。今が旬、このミュージカルの高揚を感じてみて欲しい。(高橋友紀子)
※注「ショーストッパー」拍手喝采で舞台の進行が中断するほどの名演技や歌。

Be More Chill
■会場:Lyceum Theatre
 149 W. 45th St.
■$40〜
■上演時間:2時間30分
bemorechillmusical.com


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