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死者も出たジェノヴァG8 反グローバル化が顕在化
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デモ隊により燃やされたイタリアの国家憲兵隊(カラビニエリ)車両 (イタリア・ジェノヴァ、2021 年 7 月 20 日撮影) Author: Ares Ferrari, Creative Commons CC-BY 2.5
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 2001年の 8サミ ットは、7月にイタリア の港湾都市ジェノヴァで開 かれたが、反グローバリ ゼーションの過激なデモに 正面から遭遇することに なった。  グローバル化の出発点 を、常識的に考えて社会 主義統治が終わって世界 中が資本主義・市場経 済化に動き出した東欧革
国際ジャーナリスト 内田 忠男 につれ、「市場」が「競争」 る左翼過激派や、全身を
Untitled,(Detail 93)
わる。街頭で出会ったア
メリカ留学中というスペ
イン人の青年は、「 8
などと言っても、彼らは
一枚岩ではない。陰で対
立して冷笑し合っている。 求し、社会的正義・連帯
命の 年以降とすると、
もう 年以上が経過して
いた。
 経済資源を国家の計画 の順応性、継続と忍耐、 に基づいて配分する「計 運など多様な条件を備 画経済」から、需給バラ え、かつ味方につけなけ ンスに基づく価格調整メ ればならない。「勝つ」の カニズムに委ねるなど経 は容易なことではないの 済活動のすべてを市場の である。当然、勝ち組よ 原理と機能が決める「資 り負け組が多くなる。過 本主義」が全世界の共通 半を占める負け組に不満 理念となったのが「グロー が募るのも必然であった。 バル化」と考えるからであ  世界中が共通の理念 る。ただ旧東側諸国は、 で動くようになって、国
8コミュニケの末尾にも、 「暴力、人命の喪失と思 慮のない野蛮な行為を嘆 く」との文言が追加され
この変革に、程度の差こ
そあれ当惑し苦戦してい
た。
 市民たちは、統制が強
く不自由な社会主義統
治の中で、長い間あこが
れてきた「自由と民主主 の悪化という副次的現象 義」を手に入れることに も起きて、移民流入への 初めのうちは熱狂して、 反対も高まった。労働組 市場経済へのグローバル化 合、農業・環境保護・ をも歓迎していたが、「市 人権擁護などの団体に加 場万能主義」が浸透する え、反資本主義を主張す
を前提としており、競争 とは必然「勝者」と「敗者」 を生み出すもので、勝者 が莫大な利益を手にする 一方で、敗者はマイナス を強いられる仕組みがわ かってくるにつれ、そこか ら生み出される「富の偏 在」に不満を抱くように なっていった。  競争で勝つには、知識 と理解力はもとより、競 争のスピードに負けない 反射神経など競争環境へ
黒装束で包んで「ブラック・
ブロック」と呼ばれたアナ
キスト=無政府主義者集
団も加わって、反グローバ
リゼーションの輪が急速に
広がって行った。
 大衆行動として最初に
形になったのが、1999
年 月末から 月初めに
かけワシントン州シアト
ルで開かれた世界貿易機
関= 総会であった。 て難儀した。 私は現場に行かなかった  反グローバリズムを叫 が、 などの映像 ぶ団体は、「 8サミット を見ていると、約5万人 こそ、経済のグローバル のデモ隊が会場を「人間 化を推進する主要国首 の鎖」で包囲して開会式 脳が一堂に会する場だ。 が開けなくなったほか、一 それを徹底的に破壊す 部が暴徒化して商店を襲 る」としてジェノヴァを標 い、警官隊と激しく衝突 的にした。開幕前日に した。同様の反対デモは、 現地入りした私たちに 翌2000年4月に首都 も緊張感はヒシヒシと伝
それぞれの国内では、罪 もない者を拘束して拷問 にかけ、他国に向けては 戦争を仕掛けている。不
と持続可能な成長を求 めて活動してきた多くの 個人・組織こそが体現し ている......環境保護、市 民・労働者の権利、公正 で共生的な経済モデルの 推進、市民組織によって 続けられてきた平和と不 正義への闘いの諸原則の 確認......増大する社会 的分裂によってより良い 社会を夢見ることさえ妨 げられている現在の支配 的な文化モデルに対処す るには、新たな思考方法
  8首脳は 日午前 の会合で、死亡事故に悲 しみと遺憾の意を表明す るとともに、サミットに 向けられた暴力を非難 する声明を出した。また、 最終日の 日に発表した
境の壁も低くなった。少 しでも高い労働賃金を求 めて移民の増加が顕著に なり、受け入れ国の労働 市場が逼迫して失業者の 増加、不法滞在や治安
ワシントンで開かれた国
際通貨基金= 総
会にも押しかけた。
 ジェノヴァ・サミットを
開くにあたり、イタリア
官憲は過激な反対行動
を予測し、会場を警備の
し易い港近くのドゥカー
レ宮殿に設営して、周囲
に高い壁と鉄柵を巡らせ
ていた。私たち報道陣も、 条理を放置するわけには
に満たない暮らしをして いる。今回サミットの国 際的重要性は(ここに集 うた首脳たちではなく) 現行とは異なる方法を追
年に車内の警官が発砲、 死亡させる事態にも発展 した。むろんケガ人も多 数出て、それを移送する 救急車とポリスカーのサ イレンで街は喧騒の渦と 化した。
革イニシアティブを歓迎 する」と書き込まれた。   年に京都で開かれ た国連気候変動枠組み 条約の第3回締約国会 議( 3)で採択さ れた「京都議定書」につい て、小泉に先立って1月 にアメリカ大統領に就任 したジョン・ ・ブッシュが
急遽借り上げて停泊さ せた客船に宿舎を割り 当てられ、これまでのど このサミットとも違う狭 苦しい船室に押し込まれ
行かない」と話していた。
 ジェノヴァ・ソーシャル・
フォーラムと名乗る団体
は、「我々の目的」と題し
たアピールを配っていた。
大要、次のようなことが
読み取れた。
 「現在の世界は深刻な
不正義に満ちている。発
展した資本主義国に住
む世界人口の %の人々 を創り出すことが必要で、 った小泉純一郎にとって、
「離脱」を表明していた が、小泉は、「アメリカ を含むすべての国が一つの ルールの下で行動するこ とが重要で、議定書の 年発効に向けて全力を 尽くす」と訴え、「議論の 取りまとめに貢献した」 とされるなど、随所に存 在感を示した。  終了後の内外記者会 見でも、「改革なくして 成長なし」の標語を繰り 返し使って、経済政策に 強い意欲を示す一方、反 グローバル化の動きについ
が地球資源の %を浪 それが今回の行動の意味
初めてのサミットだった。
 退陣した森喜朗の後
継を決める自民党総裁
選挙で「自民党をぶっ壊
す」と広言した小泉は、 ては、「デモ隊から死傷 首相就任後も「改革なく 者が出たのは大変悲しく して成長なし」のスロー 残念なことだったが、サ ガンの下、規制緩和、公 ミットを壊してしまえと 的部門の縮小(民営化)、 いう圧力に屈してはなら 不良債権処理と銀行改 ない。サミットは先進国 革などの諸施策の推進を だけの会合ではないから 挙げていたが、サミット だ。途上国はもちろん、
費している。その一方で 毎年1100万人の子 供たちが栄養不良で死亡 し、 億人が1日1ドル
である」
 評判通りの黒装束で現
れたブラック・ブロックは、
繁華街の商店やオフィス
を手当たり次第に破壊
し、駐車している車に火
をつけ、警備陣には火炎
瓶を投げつけるなど、無
法の限りを尽くすのだが、
警官隊はなぜか手を出さ
ない。デモ隊の規模はサ
ミット初日の 日午後に でも、「このような改革 世界全体の発展、成長、 は約 万人にも膨れ上が を行うことで世界経済に 貧困削減、教育など幅
た。
◇
 この年4月に首相にな
った。その一部がレッドゾ 対する責任を果たしたい」 の広い問題解決のために
ーンとされたドゥカーレ宮 と明確に表明して各国 殿近くで警官隊と激しい 首脳から強い支持を取 揉み合いとなり、警官隊 り付け、首脳声明の冒頭 のバンを消火器で攻撃し 「世界経済」の日本の項 ていた 歳のイタリア青 に、「最近発表された改
あるのであって、先進国 だけのことを考えている わけではない」と明快に 主張した。
(敬称略、つづく)
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