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[ 9 ] 03/11/2022 YOMITIME・WWW.YOMITIME.COM・info@yomitime.com・
 ナチスの迫害から逃れた根付 「琥珀の眼の兎」 ジョナス・メカス回顧展
        「いつもカメラが回っていた」
 Installation view of The Hare with Amber Eyes . Photo by Iwan Baan
 The Hare with Amber Eyes
■5月 15 日(日)まで
Jonas Mekas: The Camera Was Always Running
■6月5日(日)まで
■会場:The Jewish Museum:1109 Fifth Avenue ■大人 $18、シニア $12、学生 $8、18 歳以下無料 ■ www.thejewishmuseum.org
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  まん丸い柿の実に止 級品に代わっていく。 デルの一人とも言わ  幸いにも、夫人の 百聞は一見にしかず。 ルの交遊仲間として まったテントウ虫や、職人ならぬ「根付師」れ、この点だけでも メイドであった女性 まずは、根付自体 も知られるジョナス・
パカッと割れた蜜柑 による洗練された意
の中で碁を指す二人 匠は、まさに芸術
など、堅牢・巧緻な 品にして掌の美。だ
情景描写に思わず が、洋装に転じた明
息を呑む。ネズミ捕 治初期には不要のも
り器を抱える小僧の のとなり、同時代の
背中に、当のネズミ ヨーロッパの日本趣味
が乗っている姿はユー (ジャポニスム)とも
モラスで、蛸に乳を 相まって、根付の多
含ませる海女の姿態 くは海外に流出する
は何ともエロチックだ。 こととなる。
 根付とは、江戸  本展に登場する ィーンのエフルッシ宮 一時、大叔父ととも 時代に流行った実用 根付もまた、 世 殿に住む従兄弟に結 に日本に里帰りして 品で、巾着や印籠 紀後半のパリで活躍 婚祝いとして贈られ、 いたこともある。 などを着物の帯から した美術批評家で 夫妻がもうけた4人  根付をめぐるこの 下げて持ち歩く際に 印象派絵画のコレク の子どもたちに愛さ 数奇な物語は、エフ
本来の上映時間よ り割愛されて順繰 り流れていく。ウォ ーホルの夏の別荘に 遊ぶ、 代のジョン とキャロライン・ケ ネディを捉えた映像
興味津々だ。その家 の機転から、根付だ が素晴らしい。多く メカス(1922〜 柄は、オデッサの穀 けが少しずつ持ち出 は平台のガラスケー 2019)の回顧展 物商人から身を起こ され(ナチス軍には、スに並び、真上から だ。 し、やがてロスチャイ 価値なきものと映っ も四方からもじっく  初期の長編「ウォ ルド家に匹敵する銀 たのか)、戦後、夫 り眺めることができ ールデン(」1969) 行業で成功したユダ 妻の長女に返却さ る。また、当時の絵 や短編ビデオ「自画 ヤ系富豪一族とある。 れ、現在は、その孫 画コレクションの一部 像」(1980)か  ともあれ、シャル の世代であるロンド や、家具や書棚の再 ら、遺作の「レクイ ルが手に入れた全 ン在住の陶芸家エド 現に囲まれ、一族の エム」(2019)ま 264点の根付は、マンド・ドゥ・ヴァ 夥しい数の記念写真 で、全 本の映像が、
そっくりそのままウ ールが管理している。 や手紙資料を追って いると、何やら大河 ドラマの世界を眺め
「留め具」として使 ター、シャルル・エフ れていく。ところが、ルッシ一族の流転の
 これほどたくさん われた。もともとは ルッシに伝わるもの 1938年、ナチス・ 歴史とも重なり、ド
の根付が一堂に!そ 木の根を切っただけ だ。彼は、マルセル・ ドイツの侵攻によって ゥ・ヴァールによる ロシア軍による爆撃 また、インスタレー して、職人たちの想 のものだったが、や プルーストの小説「失 一家は宮殿から追い 著作「琥珀の眼の兎」 が続き、市民の多く ション形式で設置さ 像力の何と豊かであ がて商売繁盛のお守 われた時を求めて」 出され、絵画やアン の中で詳細に綴られ が否応なく国外退 れた 数面のスクリ ることか。わずか3、 りや粋な装飾品とな の第一篇「スワン家の ティークの調度品な ている。本展は、実 避を迫られている。 ーンには、一作品の
4センチほどの小さ り、素材も、象牙や ほうへ」に登場するシ ど美術品のすべては にこの書物がベース 本展は、過去の激動 なオブジェながら、黒檀、琥珀など高 ャルル・スワンのモ 没収されてしまう。 になっているわけだが、の歴史を振り返るた めのものでも、運命 に抗う美術品の強さ に浸るためのもので もない。まさに世界 のいまに目を開かせ る、感慨深い展覧会
みが、場面がズレた 形で複合的に上映 され、メカスの断片 的な詩情性をよりい
ているようだ。
 いや、ドラマなど
ではない。奇しくも
オデッサを含む現ウ クライナの各地で、は、今見ても新鮮だ。
となっている。 ◇
 ユダヤ美術館で は、つい最近、もう 一つ見逃せない展覧 会が始まった。リト アニア出身の映像作 家にして、実験映画 の牙城「アンソロジ ー・フィルム・アーカ イブス」の創始者の一 人、また、ウォーホ
っそう高めている。 (藤森愛実)


























































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