Page 4 - Yomitime392
P. 4

・YOMITIME・WWW.YOMITIME.COM・info@yomitime.com 2/26/2021 [ 4 ]
Ellen Gallagher, Dew Breaker , 2015. Courtesy the artist and Hauser & Wirth
BL M
55
 アメリカ拠点の黒人作家37人 立ち上がるアートの力
「悲嘆と不満:アメリカの美術と喪の時代」
37
90
  Rashid Johnson, Antoine’s Organ , 2016
© Rashid Johnson. Photo by Dario Lasagni. Courtesy the artist and Hauser & Wirth
Grief and Grievance:
Art and Mourning in America
■ 6 月 6 日(日)まで
■会場:New Museum:235 Bowery ■大人 $18、学生 $12、シニア $15
■ www.newmuseum.org
Dawoud Bey, Fred Stewart II and Tyler Collins , from the series “The Birmingham Project,” 2012 © Dawoud Bey. Courtesy Rena Bransten Gallery, San Francisco, and Rennie Collection, Vancouver
37
                                                                                                          ニューミュージアム として構想された本 のアートの役割、と の全館に広がる展覧 展のタイトル「悲嘆 りわけ黒人作家の姿 会「悲嘆と不満 : ア と不満」とは、ズバ 勢を問うことになる。 メリカの美術と喪の リ「黒人たちの悲嘆 こうして、本展の参 時代」は、ナイジェ と白人(至上主義者) 加作家 人の全員 リア出身のキュレータ の不満」であると、 が、アメリカ拠点の ー、オクウィ・エン エンウェゾー自身が語 黒人作家という形に ウェゾーが企画した っている。この対立 なった。
月、黒人作家の個展
や企画展が目立って
多い。仲間内ではは
や、「またか」とい
う声が聞かれ、ただ
単に 運動を
背景にしたアート界
の内部改革だと解釈
する人もいる。だが、
少なくともこの 人
は、若手であれベテ
ランであれ、すでに ュー・ブレイカー」。
薄いブルーの画面に はノート用紙が一面 に貼られ、青インク の点線が続いている。 中央にコラージュされ たモチーフは、どこ か脊椎を思わせる身 体のイメージだ。デ ビューの頃から注目 してきたこの画家が、 絵肌であれ、構成で あれ、これほど完成 の域に達していたと は。が、抽象的な そのモチーフは、実 に、アフリカからの
老年の対比と、それ 拠点のシアスター・ ぞれの実直な視線が ゲイツの映像作品も 見る者の目を射る。 秀逸だ。ロビー階で 何か言いたげなそ は、2019年のベ
 
評価の定まった作家 たち。意図的な取 り上げなど必要のな い面々だ。
ものだ。 年代後 感情を煽ったのが、 思えば、ここ数ヵ  
半に始まるグローバ 2016年の大統領 リズムや「複数のモ 選挙戦の終盤にゲテ ダニズム」など、ア ィスバーグで行われ
ート界の多様化と美 術史の見直しに先鞭 をつけた彼は、白人 中心のアート界にあ って、ドクメンタや ベニス・ビエンナーレ など、世界屈指の国 際展の芸術監督を務 めた。教職にもあっ たが、2年前、本 展の準備の最中に 癌で亡くなっている。
たトランプ陣営の集 会であったとも。
歳の若さだった。
ロジェクト」は、お そらく血縁関係には ないであろう若者と
ンスタレーション(観 葉植物の陰にピアノ が設置され、随時パ フォーマンスがある) を囲んで、マーク・ ブラッドフォードとジ ュリー・メレテュの激 しい筆触の抽象画が 並ぶ。これら大作に 混じって登場するジ ャック・ウィッテンの 小品「1964年、 バーミングハム」も、 静かにして強烈だ。
もともとは、大学 の公開講義のテーマ
 
ゲティスバーグとい えば、自由と平等の 原則を宣言したリン カーンの演説で有名 な、いわばアメリカ 民主主義の聖地であ る。ここで、米国史 を紐解くのは、館内 の解説パネルに任せ るとして、エンウェ ゾーは、こうした社 会の分断をいち早く 感じ取り、その中で
生きていたらと想像 させる年代の大人が モデルとなっている。
ら立ち上るアートの パワー。そこで気づ くのは、近年の黒人 作家の台頭とは一過 性・一個人のもので はなく、長年に渡っ て培われた意識的な 共同作業ではないか ということだ。本展 は、そうした作家た ちから敬われ、慕わ れた黒人キュレーター のパイオニア、オク ウィ・エンウェゾーの 遺志を継ぐ、美しい 追悼展ともなってい る。
 
一方、エンウェゾ ーの審美眼は、反ポ リティカル・アート、 反プロテスト・アー トに徹している。た とえばエレン・ギャ ラガーの絵画連作「デ
ニス・ビエンナーレで 金獅子賞に輝いたア ーサー・ジェイファの 映像コラージュ「愛は メッセージ、メッセー ジは死」が登場する。 この作品を見るだけ でも、本展を訪れる 意味がある。
 
の視線が気になる。
作品の背景にあるの
は、1963年、バ
ーミングハムの教会
でクー・クラックス・
クランの襲撃により
命を落とした4人の
少女たちだ。少女
たちと同年齢の若者
と、彼女たちがいま いや、会場全体か
「輸送」中、妊娠が 分かって海中に投げ 出された女奴隷の逸 話に由来している。
作品の意図に興味 が湧くのは、あくま でも作品自体の強さ
 
ダウッド・ベイの や美しさ、そのイン 二連のポートレート パクトがあってのこ 連作「2012年、 とだ。ラシッド・ジ バーミングハム・プ ョンソンの大規模イ
 
 
若手コンセプチュ アリストのキャメロン・ ローランドの制度批 判の作品や、先ごろ ガゴジアン画廊で個 展を開催したシカゴ
 
 
(藤森愛実)





























   2   3   4   5   6