あの映画がミュージカルに
超・娯楽大作!
「バック・トゥ・ザ・フューチャー:ザ・ミュージカル」
「バック・トゥ・ザ・フューチャー:ザ・ミュージカル」は、1985年公開のロバート・ゼメキス監督、マイケル・J・フォックス主演のブロックバスター映画のミュージカル版。2021年にウエストエンド初演、オリヴィエ賞ミュージカル作品賞を受賞し、今年8月にブロードウェイで華々しく開幕した。
大掛かりな舞台装置や革新的なプロジェクションを駆使して徹底的にショーアップ、一大エンターテイメントに仕上がっている。
1985年、ロックとスケボー好きの高校生マーティは、上司ビフの嫌がらせに諾々と従う父親と酒量を過ごしがちな母親に心を痛めている。友人の科学者ドクが発明したタイムマシンの実験中、マーティは誤って1955年へとタイムトラベルしてしまう。高校時代の両親が恋人同士になるきっかけをうっかり壊してしまい、二人を結びつけようと躍起になるが、女子高生の母親はよりにもよってマーティに恋をして…。
これ以上のあらすじは不要だろう。ミュージカル版は映画のストーリーや設定を忠実に再現しつつ、舞台ならではの工夫が施されている。劇場中にLEDスクリーンを張り巡らせ、まるでテーマパークのアトラクションに足を踏み入れたようで、たちどころに引き込んでくる。
最大の見せ場は自動車型タイムマシンのデロリアンだ。実物が舞台上に登場した時、客席は大歓声の渦と化した。プロジェクションを巧みに使い、時速88マイルで疾走するスピード感も再現。最後にあっと驚く形でまた登場するが、それは観てのお楽しみ。
ミュージカル版の脚本は映画と同じくボブ・ゲイルが手がけ、共同クリエイターとしてゼメキス氏もクレジットされている。映画のテーマ音楽を担当したアラン・シルヴェストリも作詞作曲の一員で、映画の製作陣ががっちりとクリエイティブチームを固めている。
演出はジョン・ランドー(「ユーリンタウン」、「ウェディング・シンガー」)。各部門の演劇界の一流デザイナーに加えてイリュージョンまでクレジットされ、スケール面ではブロードウェイ随一だ。
テーマ曲やチャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの「パワー・オブ・ラブ」も、もちろん登場。新しく書かれた楽曲はどうしても印象が薄いが、これらを超えろというのは酷な話だろう。
俳優陣も外見、衣装、演技まで映画版の登場人物たちのイメージを損なうことなく再現。ドク役のロバート・バートはクリストファー・ロイドのエキセントリックなドクに彼自身の個性を取り入れ、ウエストエンド版からの続演。マーティの父親ジョージ役のヒュー・コールズも続演組で、気弱なジョージの挙動不審ぶりを、抱腹絶倒のフィジカルコメディで表現する。
マーティ役のケイシー・ライクス(「あの頃ペニー・レインと」)は、さすがにフォックスのイメージ以上の個性を見出すまでには至っていないが、21歳にしてブロードウェイで主演2本目と将来が楽しみである。
現代のセンシビリティへの配慮として、リビア人過激派のドク殺害のシーンはカットされているが、ジョージがロレインの部屋を覗くというアブナイ行為や女性の扱いがビミョーなのは原作のまま。
映画の忠実な再現と娯楽に徹し、新しい視点でのプラスアルファが付与されていない点について評価が分かれた。が、それをクリエイターが誰よりも理解した上で、ここまで娯楽性を極めたのはあっぱれである。(高橋由紀子)
Back to the Future: The Musical
- 会場:Winter Garden Theatre
1634 Broadway - $45〜
- 上演時間:2時間35分
- backtothefuturemusical.com/new-york