「ひらめき」という魔法
心に響くハイブリッド本
「君はリンゴで世界を驚かせるだろう 現代アートの巨匠たちに学ぶビジネスの黄金法則」
一般的に「あとがき」は、「読み終わった後」に読むものだが、「あとがき」を先に読むことで、著者の意図を理解することができると考えている。
本書のあとがきで著者のARISA氏=写真=は、「あなたが、なんのために生きているのかに気がついていないのならば、世界に目を向けよう」と提案する。すべての人が「ひらめき」を持っている、もしその「ひらめき」が感じられないのであれば、自らの「無意識との通信」が切り離されているからだ、と。これはAR ISA氏がこれまでに2000人以上の日本人アーティストの海外進出をサポートしてきた経験から生まれた考え方。これを心に止めておくことが、本書を読み解くカギとなる。
やけに長いタイトル「君はリンゴで世界を驚かせるだろう 現代アートの巨匠たちに学ぶビジネスの黄金法則」と、野性爆弾クッキーの奇抜なイラストが目を引く。アートプロデューサーで現代アート専門家の著者による体験談かと思いきや、平凡なサラリーマン(タケオ)が主人公の時空を超えたファンタジー小説、という構成に驚く。
地方出身で「自分には何の取り柄もない」と考えていたタケオが、サルバドール・ダリの生まれ変わりという「ダレ」と出会う。コテコテの大阪弁を話す胡散臭い(?)ダレは、アニマル柄(大阪人のARISA氏らしい設定!)のガラケーで世界的な画家にアポを取り、タケオに会わせていく…というのが大筋だ。その相手は、ピカソやハースト、ポロック、ウォーホル、カーロ、セザンヌといった死者たち(本書に登場する画家で生者はバンクシーのみ)で、「死者とも話せるハイブリッド携帯」というのが笑いを誘う。
タケオが抱える普通の悩み(人とうまく付き合いたい、楽しく仕事をしたい、売り上げをあげたいなど)は、ダレの導きで出会う画家たちの名言によって、少しずつ変化していく。
単純な「画家とその人生・名言紹介」で終わるのではなく、それぞれの時代背景、その思考に至った経緯などが、「3年をかけて完成させた」という筆者の深い洞察力とユーモアによって描かれ、展開する。
「天才になりたかったら天才のフリをすればいい(ダリ)」「明日に延ばしていいのは、やり残して死んでもかまわないことだけだ!(ピカソ)」「いつまでもウジウジ悩んで惨めな気持ちでいる代わりに〝だから何?〟で終わらせることだってできるんだよ(ウォーホル)」「自分の強さを実感している人は、謙虚になる(セザンヌ)」など、天才たちの経験や思考は、現代社会を生きるタケオ=私たちの「意識」の持ち方によって体現できることだと説く。
本書は小説か、アート本か、ビジネス本か、自己啓発本か…そうではなく、これは読者の受け止め方によって変化する「ハイブリッド本」ではないだろうか。
読み終わった時に、タイトルの「リンゴ」の意味を知ると同時に、それぞれ異なった「ひらめきという魔法」を手にしているだろう。
君はリンゴで世界を驚かせるだろう
現代アートの巨匠たちに学ぶビジネスの黄金法則
■著者:ARISA
■発行:飛鳥新社
■JCATウェブサイト:www.jcatny.com