彼について記憶に残るのは、私がニューヨークをいったん離れて帰国した直後の88年10月に、レーガン政権のジョージ・H・W・ブッシュ副大統領とマサチューセッツ州のマイケル・デュカキス知事が大統領候補として臨んだテレビ討論の質問役をしたときのことだ。東京でCNNの生フィードを見ていると、質問者の中に彼がいるのを見つけた。死刑廃止を公約に掲げていたデュカキス氏に、「仮にあなたの奥さんがレイプされて惨殺されたとしよう。その犯人への死刑を支持するか」と問い、デュカキス氏は「支持しない」と答えたものの、I would not と短く答えただけで妻に対する感情のひださえ示すことがなかった。このことから、デュカキス氏に、“冷酷な人間”、“法律的な合理性一本で人間味のない人物”との評価が定着したのだった。デュカキス氏は記録的な惨敗を喫する。
CNNは80年代を通して、少なくとも米国内のニューズ・チャンネルとしては独走状態で、ヘッドライン・ニューズやCNNインターナショナルなどチャンネルの幅を広げ、日本はじめ欧州、ラテンアメリカ、トルコ、インドなど国際的にもサービスの範囲を広げたが、89年にCNBC (Consumer News and Business Channel)が開局したのを皮切りに、MSNBC、FOXニューズなどが続々参入して戦国状態となった。とくにドナルド・トランプ大統領の登場と前後して保守系ニューズ・メディアの存在感が高まり、どちらかといえばリベラル性が強いとされるCNN(私はそれほどとは思わないのだが……)は、トランプから「フェイクニューズ」のラベルを貼られるなどして視聴者を失い、2020年代初めの現在では、FOXとMSNBCの後塵を拝す状態になっている。